村上宗隆、巨人では実現しなかった「56号」と「令和初の三冠王」 25年オフ「米移籍」へ加速

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ヤクルトの「ファミリー気質」

 村上の成功の一因には、ヤクルト本社の企業風土との関連性も挙げられる。

「ヤクルトの編成は、巨人のように選手をFAで買い漁り、使い捨てるというスタンスとは対極にある。故障した選手でも復活を何年も待つ。引退後は指導者やスタッフで残すよう模索する。トレードなどで獲得した選手も同等に扱う。一昔前の“終身雇用”の雰囲気さえある。親会社だけではなく、球団にも、ヤクルトレディをはじめ現場の人たちが組織の骨格を成し、一人一人が財産という考え方が根付いているのではないか。こうした『ファミリー気質』は選手がしのぎを削る世界でも競争力の低下を招くのではなく、育成ではプラスに働き、能力が最大限伸びるように作用している」(セ・リーグ球団の編成担当者)

 実際に伊藤智仁、石井弘寿ら大きな故障に見舞われた投手には十分なリハビリの猶予を与え、辛抱強く復活を待った。「他球団ならとっくに解雇されていてもおかしくなかった。復活はできなかったが、最後までヤクルトの選手で終われた」(遊軍記者)

 ともに現在は1軍投手コーチとなり、故障予防などの観点から登板間隔に十分配慮した指導でリーグ屈指の投手陣を構築した。

 一方で浮世離れした高額な年俸を払うことは、ヤクルトレディら社員への配慮から自重してきた。年俸が高騰すると、青木宣親らにはメジャー移籍を容認してきた。

 早くもMLBスカウトが熱視線を送る村上にも、近い将来の米球界移籍が取り沙汰される。海外FAは順調なら27年オフに取得し、28歳でMLB挑戦が可能となる。ただ、契約金や年俸に関して25歳未満の年齢制限がなくなる25年オフにも、ヤクルトがポスティングシステムによる移籍を認める可能性は十分にある。

「昨季はMVPを獲って日本一にも導いた。三冠王に輝いて、(来春の)WBCで優勝すれば、全てを手にする。このまま年俸が右肩上がりなら球団は海外FAの前年にこだわらず、前倒しでポスティング移籍に踏み切るかもしれない。選手として旬の時期にメジャー行きを認め、青木のように戻ってきて最後はヤクルトでユニホームを脱いでもらえばいいと考えているのではないか」(同)

 巨人は過去、生え抜き選手にポスティング移籍を認めたケースはない。ヤクルトは快くメジャーに選手を送り出し、快く復帰を受け入れる――。「家族球団」の揺るがぬ信念は「村神様」といえども手放すことを厭わないのかもしれない。

津浦集(つうら・しゅう)
スポーツライター

デイリー新潮編集部

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