なんでこんなところに? ポルトガル料理研究家・馬田草織がスーパーで思わず二度見した珍食材とは

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到底食べようとは思えない見た目

 亀の手のような形だから「カメノテ」と呼ばれている。甲殻類でフジツボの一種だという。本当の亀の手は、持ち主の「亀」の「手」だから個性的な様子にも合点がいく。でも、カメノテの方はそうじゃない。手の先っちょみたいな数センチの短くてゴツい形が全容であって、しかも収獲される前は岸壁にびっしりくっついている。気味悪いことこの上ない。海辺で目にしても、到底食べようとは思えない。

 だから、きっと最初に食べた人間はもう何日も食べていないか、誰かに脅されでもしたに違いない。そして、そんな決死の勇者がいたからこそ、この不気味な物体が、ゆでると夢に見るほど忘れられない味だということを私たちは知り得たのだ。このカメノテを最初に食べようと岩場にかじりついて収獲し、ゆでることを試みた人に、心からのお礼が言いたい。

 あれ以来、毎回貝売り場をパトロールしているが、カメノテにはまだ会えていない。こうなったら、収獲しに行こうかな。

馬田草織(ばだ・さおり)
文筆家。著書に『ようこそポルトガル食堂へ』など。料理とワインを楽しむ「ポルトガル食堂」を主宰。

デイリー新潮編集部

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