エリザベス女王が1975年に来日した際、昭和天皇の前で語ったこと 大先輩に人生相談?

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リー・クアンユーの発言

 徳本氏の『エンペラー・ファイル』から1例だけ、シンガポールの首相を務めたリー・クアンユー氏(1923~2015)との会談内容を紹介しよう。振り返っているのは、もちろん真崎氏だ。

《「首相は中国と日本の文明を比較して、朝鮮半島での影響について述べられました。中国文明は閉鎖的だが、日本の文明は外の世界に開放的だ、朝鮮は日本に占領されて良かったというんです。それに対して陛下は完全に無言で何も仰いませんでした。何も聞こえないように振舞い、沈黙を貫かれたんです。こうしたことに陛下はイエス、ノーと答えられません。何を言っても朝鮮半島の人々は嫌がるでしょうから。(満州事変を調査した)あのリットン調査団のレポートでも、植林事業など日本の半島での貢献に触れているでしょう。でも、それを私たちからは公言できないんです」》

 要するにリー・クアンユー氏は、「韓国に謝罪するばかりが能ではありませんよ」とけしかけたのだ。最もデリケートな歴史論争を挑んだが、冷静な昭和天皇は沈黙をもって答えた。外交辞令どころの騒ぎではない。確かに、極めて生々しいやり取りだ。

49歳と74歳

 どうやら海外の要人は、昭和天皇と会談すると、思わず本音を漏らしてしまうようなのだ。同書で徳本氏は次のように指摘している。

《皇居にやって来る各国の要人は国賓の王族や政府首脳も含まれ、国際政治に大きな発言力を持つ人間ばかりだ。いずれも政府が下にも置かないもてなしで招いた賓客だが、それが天皇の前に出た途端、驚くほど率直に内心の悩みや不満を吐露するのだ》

 まさに《驚くほど率直に内心の悩みや不満を吐露》した一人が、エリザベス女王だったというわけだ。

「立憲君主の悩みは、立憲君主にしか分かりません。1975年に来日した際、エリザベス女王は49歳、昭和天皇は74歳でした。女王の父であったジョージ6世は病気のため、50代で崩御。女王は25歳の若さで即位しました。彼女は懸命に公務に励んだでしょうが、相談できる人も少なく、『自分は立憲君主としてどうなのか』と悩みは深かったと思います」(同・徳本氏)

 エリザベス女王は昭和天皇に「父」を見たのではないか──そんな想像も決して現実離れはしていないだろう。君主とはどうあるべきか、“大先輩”にアドバイスを求めたのだ。

 徳本氏がテープを聞くと、通訳の真崎は、その時の女王の印象を「冠をいただく頭は安んぜず」と語ったという。これは、イギリスの文豪シェークスピアの「ヘンリー4世」の中の台詞で、「偉大なる者に心安まる時はない」という意味だ。

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