実家の所有者が93人になることも! 家族関係を破壊する「共有不動産」の知られざるリスク

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共有状態はリスクの温床

「共有不動産」と聞いても、ピンとこない方は多いかもしれない。だが、実家の不動産の相続については、避けて通れない問題と考えている人も少なくないはずだ。たとえば、あなたの親が亡くなって、実家の土地と建物をきょうだいで相続したとしよう。その際、誰かひとりが相続するのではなく、きょうだい各々が持分という割合で所有権を分け合うこと――。これを共有不動産(共有名義不動産)と呼ぶ。実はいま、この共有不動産を巡るトラブルが急増し続けているという。しかも、揉め事が起こるのは、莫大な資産を有する富裕層ではなく、一般家庭の方が圧倒的に多いのだ。(文中の表現は、プライバシー保護の観点から一部を変更してあります)

「人間の体でたとえると、不動産が共有状態にあることは明らかに不健康。運が良ければ大病には至らないかもしれませんが、ひとたび問題が顕在化すれば、親兄弟、親類縁者との関係が修復不可能な状況に陥るリスクがあります。私たちは、そういった事例を数多く目にしてきました」

 そう語るのは、共有不動産の問題解決に特化した「株式会社クランピーリアルエステート」の大江剛代表である。同社では年間3000件もの相談を受けているが、その件数は右肩上がりで、今後もその傾向は強まるという。

 では、そもそもなぜ共有不動産が生まれるのだろうか。

「実家の不動産を所有する親が亡くなって、それをひとりの遺族が相続するのであれば何も問題はありません。しかし、子どもが複数いて、価値のありそうな財産が実家の不動産しかない場合はどうでしょうか。長男が実家を相続し、他のきょうだいに対して法定相続分に見合う現金などを渡せれば一件落着ですが、当然ながら、長男がそれだけの資産を持っていることが前提になります。様々な事情で親族間の話し合いがまとまらないと、ひとまず不動産を共同所有することになる。こうして共有不動産が生まれるわけです」

売却には所有者全員の合意が必要

 共有不動産の場合、所有者のひとりが不動産を売ろうとしても、他の全所有者の合意がなければ売却はできないなど、様々な制限がある。これが親族間トラブルの火種になるのだ。

 大江氏によれば共有不動産がトラブルになるケースには特徴があるという。象徴的なのは東京・世田谷区だ。

「弊社が手がける案件で一番多いのが世田谷区の不動産です。私たちが独自に世田谷区内の不動産相続を調査したところ、トラブルになっていないケースも含めて、約3分の1が共有名義になっていました。他にも、横浜市や川崎市、神戸市の案件は多いですね。理由としては、そうした地域は不動産価格が高騰している、つまりは父母や祖父母が購入した時よりも地価が上がっている。加えて、先祖代々の資産家ではなく、一般家庭が多い。実際、共有不動産を巡るトラブルは資産価値にして3000万~5000万円ほどの不動産が大半を占めています」

 相続トラブルといえば、お金持ちの抱える問題と思われがちだ。だが、富裕層は事前に相続対策を講じていることが多いため、トラブルが生じることが実は少ない。しかし、一般家庭はそうはいかない。親が亡くなった直後に、何の準備もないまま、いきなり不動産の相続という難題に直面するパターンが後を絶たないのだ。

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