拳銃も車も無い時代、人間はゾンビとどう戦うのか? 実は「韓国時代劇」が1番面白い

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DNA鑑定が出来ないからこそ

 こうした要素は、物語の設定を作るうえで非常に便利なことでもある。

 例えば「王になった男」(ネットフリックスで配信中)は、王とそっくりな旅芸人ハソンが王の影武者になる話だ。暗殺の恐怖と猜疑心、さらに薬物によって暴君と化した王と、陽気で気のいい誰にでも好かれる旅芸人は、顔は同じでも到底同じ人間には見えない。当然ながら王の政敵は、その正体に疑念を持つ。現代なら密かに髪の毛を1本抜き取ってDNA鑑定すればいいのだが、時代劇ではそれができない。

 同じことは、昨年大ヒットした「恋慕」(ネットフリックスで配信中)にも言える。主人公タミは、生まれてすぐに王宮から密かに出された王子の双子の妹なのだが、兄妹は子ども時代に偶然再会し、ある事情から役割を入れ替わることにした。ところがその時に本物の王子が死んでしまい、タミは自分が女性であることを隠して、王子として生きることになる。こちらもDNA鑑定があれば、一発で正体がバレてしまう案件である。

「恋慕」でもうひとつ注目したいのは、タミが王宮から密かに出された理由である。朝鮮王朝では「双子」は不吉とされ、もし王子が双子であれば王の後継者としての正当性を揺るがしかねない。迷信、伝統、しきたりに囚われているのも「時代」ゆえで、それは「科学技術がない」と同様の「枷」、それも人間の心を理屈抜きに縛るものであり、あらゆる葛藤の種である。「双子? めっちゃかわいいじゃ~ん!」てな現代のようにフリーダムな世界では、「双子とバレたら一大事、でも片方殺すなんてできない」なんて葛藤は生まれず、ドラマ「恋慕」はそこで終了である。

告白は「好きです」ではない

 こうした時代劇だからこその「枷」は、ラブロマンスをめちゃめちゃ盛り上げてもくれる。

 前出の「王になった男」では、旅芸人ハソンの善良さは王妃をも魅了し、ふたりは互いを思いあうようになる。だが2人には「財閥のお嬢様と貧乏なプータロー」じゃ済まない、恋どころか直接顔見るのも許されないほどの身分差がある。しかも王妃はそれを知らないまま恋に落ちてしまっているのだ。「ガルルガルル」言いながら醜い権力闘争を繰り広げるティラノサウルスの群れの中で、2人の恋は唯一ほっこりとした幸せを味わわせてくれるものだ。なのにその愛情が深まれば深まるほど、恋の行方が陰謀以上にハラハラしてくるってどういうことよ! てな具合である。

「恋慕」でもそれは同じ。世子として生きる覚悟を決めたタミの前に、幼いころに出会った初恋相手ジウンが現われてしまう。当然ながらドラマの大きなポイントは、ジウンが世子の秘密にいつ気づくのか、どうして「世子=タミ」だと分かるのか、なのだが、そこでものをいうのが、ジウンがタミに渡した「手書きしたあるもの」である。

 手書き文字から離れて久しい昨今、久々に書いた字があまりにド下手で、手紙そのものを破り捨てしまったりする人も多いに違いないが、そんな現代人のハートをジウンが毛筆で書いた「あるもの」のロマンチックさでわしづかみにする。「好きです」でなく「恋慕しております」なんて告白も、SNSで荒んだ心には染み入るようなクラシックさである。つまり何が言いたいかといえば、「あるもの」がプリントアウトされたものだったら、ジウンは「世子=タミ」に一生気づけなかったってことである。科学技術はロマンチックの敵でもあるのだ。

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