「力による現状変更は許さない」いま響く安倍元総理の言葉――安倍晋三元総理の名スピーチを振り返る(3)

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 時に「タカ派」などと批判されても、安倍晋三元総理の安全保障政策への姿勢はぶれなかった。安倍元総理の名スピーチ、演説を振り返る本企画の3回目の今回は、2013年10月、自衛隊記念日観閲式における内閣総理大臣訓示である。

「力による現状変更を許さない」という言葉は、今日、さらに説得力を持って響くのではないか。

『日本の決意』所収、「国民のための自衛隊」を全文掲載)

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「力による現状変更は許さない」

 本日の観閲式に臨み、士気旺盛な隊員諸君の勇姿に接することができ、観閲官として大変うれしく思います。この場に立つと、諸君の最高指揮官として、改めて身の引き締まる思いです。

「誰か、いませんか」

「一人でも多く救出したい」との思いが込められた、この自衛隊員の声は、多くの国民の耳に残っています。伊豆大島では、この瞬間にも、自衛隊員が行方不明者の捜索活動にあたっています。

 過去に経験したことのないような豪雨や、台風の被害を受けた現場で、不安が募る人たちにとって、諸君の存在が、いかに頼もしいことか。

 孤立状態となったお年寄りや子供たちの救出活動、堤防の決壊を防止するための土のう作業。危険も顧みず、黙々と任務に精励する諸君の姿は、すべての国民の目に、焼きついています。

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」

 この宣誓の言葉にたがうことなく、国民の強い信頼を勝ち得ている諸君を、最高指揮官たる内閣総理大臣として誇りに思います。

 まさに、国民のための自衛隊。

 この原点を、諸君には、それぞれの任務にあたって、決して忘れないでほしい。そう願っています。

 もちろん、大規模災害の脅威だけではありません。北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発。我が国の主権に対する挑発。日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。これが「現実」です。

 そうした「現実」のもとでも、国民の生命と財産、我が国の領土・領海・領空は、断固として守り抜く。そして、世界の平和と安定に寄与する。それが、諸君に与えられた責務であります。

 だからこそ、申し上げたい。「平素は訓練さえしていればよい」とか、「防衛力は、その存在だけで抑止力となる」といった従来の発想は、この際、完全に捨て去ってもらわねばなりません。

 力による現状変更は許さない、との我が国の確固たる国家意思を示す。そのために、警戒監視や情報収集をはじめとしたさまざまな活動を行っていかなければなりません。

 自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と協力し、戦略的な視点をもって、二国間・多国間の演習や、防衛交流・防衛協力、そして平和協力活動を、進めていくことも必要です。

 あらゆる活動が、我が国の防衛そのものであり、国民と主権を守るためのものである。その高い意識を持って、それぞれの現場で、能動的に任務にあたってもらいたいと思います。

 私も、諸君が直面する厳しい「現実」から、目を背けることはありません。諸君の先頭に立って、「現実」を直視した、安全保障政策の立て直しを進めてまいります。

「平和を侵さんとするもの」には国際的な「鎖」によって取り囲む

「世界の平和も、また我が国の平和も、座して得られるものではなく、平和を希求する各国民の不断の努力によって実現される」

 自衛隊の創設に尽力した、木村篤太郎(とくたろう)初代・防衛庁長官は、昭和29年7月1日、まさに自衛隊が創設されたその日に、こう訓示しました。

 平和は、他人の力によってもたらされるものではない。私たち自身の力で実現する他ありません。

 そして、その努力に、「安住の地」などないのです。

 戦後68年間にわたる、平和国家としての日本の歩みに、私たちは胸を張っていいと思います。しかし、そのことは、将来にわたる平和を保障してくれる訳ではありません。

 激変する国際情勢を的確に見定め、サイバー・宇宙・海洋といった新たな分野での変革を見据えることが必要です。その中で、私たち自身の問題として、最善の安全保障政策を、絶えず追求していかねばならない。

 その司令塔が、「国家安全保障会議」です。戦略的かつ体系的に取り組むための見取り図が、「国家安全保障戦略」です。厳しい「現実」をふまえれば、これ以上、立ち止まっている余裕はありません。

 年末までに、防衛大綱を見直します。もちろん、過去の延長線上の見直しではありません。将来にわたり、自衛隊が求められる役割を十分に発揮できるよう、明確な問題意識と確固たる意志のもと、必要な防衛態勢をしっかり強化してまいります。

 併せて、集団的自衛権や集団安全保障に関する事項も含めて、安全保障の法的基盤の検討を進めます。

 すべては、時代の変化を捉え、これからも「国民のための自衛隊」であり続けるための改革です。私は、諸君と心を一つにして、国民の生命と財産、そして我が国の領土・領海・領空を、断固として守り抜く決意であります。

 木村長官の言葉は、さらに、こう続きます。世界の平和も、また我が国の平和も、「平和を侵さんとするものに対する共同の防衛によってこそ、はじめて維持されてゆくものである」

「平和を侵さんとするもの」がいれば、国際的な「鎖」によって取り囲むほかない。半世紀を経た今もなお、日本の進むべき道を指し示す言葉であると思います。

 先般の東アジアサミットでは、この地域の平和と安定、そして、海洋の安全保障、航行の自由を確保していくため、多くの国々が、連携の必要性を唱えました。

 これは、我が国の平和にも直結する、重要な課題であります。

 各国からは、この地域の平和と安定を支える「鎖」の中で、日本の積極的な貢献に対する大きな期待も寄せられました。

 さらに、今この瞬間も、ソマリア沖・アデン湾で、ジブチで、そして南スーダンで、過酷な環境をものともせず、「我が国の顔」として立派に任務を遂行する自衛隊の諸君がいます。高い能力と規律正しさで、国内外からも高い評価を得ている彼らは、日本の誇りです。

 相互依存を深める世界において、もはや我が国のみでは、自らの平和を守ることはできない。こうした時代にあって、世界の平和と安定の確保は、私たち自身の問題なのです。

「鎖」の強さは、一つひとつの「鎖の輪」の強さによって決まります。国際協調という名の「鎖」の中で、日本が、弱い「輪」であってはならない。

 日本は、世界の平和と安定のため、これまで以上に積極的に貢献していかねばなりません。私は、「積極的平和主義」こそが、我が国の21世紀の看板であると考えます。

 日米同盟が、その「鎖」の中心であるべきは、言うまでもありません。

 先日、初めて、日米の外務・防衛4閣僚が東京に集まり、歴史的な「2+2」会合が行われました。積極的平和主義の旗のもと、より強固な日米同盟を構築してまいります。

 宮城の松島基地、沖縄の那覇基地、宮古島分屯基地、そして、硫黄島、アフリカのジブチ、さらには、今日、この朝霞駐屯地。私は、総理就任以来、さまざまな「現場」に足を運び、活躍する自衛隊員の頼もしい雄姿を、目の当たりにしてきました。

 その一人ひとりに、諸君の健康と安全を祈る、ご家族がいます。今日、この場所にも、たくさんお集まりのことでありましょう。そのご家族の支えがあってこそ、諸君が、立派に任務を果たすことができる。そう思います。

 ご家族の皆さん。大切な伴侶やお子様、ご家族を「現場」に送り出されていることに、最高指揮官として、感謝の念でいっぱいです。彼らが、しっかりと任務を遂行できるよう、万全を期すことを改めてお約束いたします。

 さらに、常日頃から自衛隊に御理解と御協力をいただいている御来賓の方々をはじめとする、関係者の皆様に対しても、この場を借りて、感謝を申し上げたいと思います。

「国民のための自衛隊」

 諸君の後ろには、諸君を信頼し、諸君を頼りにする、日本国民がいます。

 私と日本国民は、常に、諸君をはじめ全国25万人の自衛隊と共にある。その誇りと自信を胸に、それぞれの持ち場において、自衛隊の果たすべき役割を全うしてください。

 諸君においては、常に自らの職責の重要性に思いを致し、日本と世界の平和と安定のために、益々精励されることを切に望み、私の訓示といたします。

(2013年10月27日 自衛隊記念日観閲式 内閣総理大臣訓示)

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『日本の決意』でより一部を抜粋して構成。

デイリー新潮編集部

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