【櫻井よしこ氏特別寄稿】世界に晒された日本の平和ボケ 改憲に命を懸けた「憂国の宰相」の遺志を継げ

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凶弾に倒れた安倍元首相

 ジャーナリスト櫻井よしこ氏の本誌(「週刊新潮」)連載「日本ルネッサンス」の特別対談で、最も多くご登場いただいた政治家こそが、安倍元首相その人だった。志をひとつにしながら実は“緊張関係”にあったという二人。憂国の熱弁を揮った宰相の素顔を、櫻井さんの緊急寄稿で振り返る。

(この記事は、前・中・後編の【前編】です)

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 安倍晋三元首相が暗殺された。暗殺犯よ、なぜ殺したのだ。現場にいた警護のプロフェッショナル達よ、なぜ1発目の襲撃で止められなかったのか。なぜ2発目を許したのか。

 なぜだ。なぜだ。テロへの怒りと安倍氏喪失の衝激で胸の奥からマグマがせり上がってくる。どれほど地団駄を踏んでも取り返しはつかない。

 銃撃時の動画を見ると、SPや警察官らが突っ立っている。護衛の訓練をし、日々、心構えも新たに現場に臨むのであろうが、いざ事に直面すると、誰ひとり動くべきときに動かなかった。否、動けなかった。

 犯人は1発目の襲撃を外した。構え直して2.5秒から3.0秒後に撃った2発目で、安倍氏はほぼ即死した。全体がはじかれたように動いたのは、安倍氏が倒れてからだったのが動画から見てとれる。

わが国の現実逃避体質の非力さ

 これが日本か。その姿は日本国憲法前文と9条に重なる。わが国さえ悪事を働かず、平和を守れば、世界の悪しき国々は日本に手を出さない。日本さえ軍備を最小限に、力の行使は慎重に、相手国を刺激せずに大人しくしていれば、脅威は襲ってこないと信ずるパシフィズム国家だ。

 自衛隊を軍隊とせず、警察法の枠内でその持てる力を必要最小限にとどめる憲法9条の精神に浸りきったわが国は、ずっと現実から逃げてきた。目をつぶってしまえば迫り来る脅威は見なくて済む。まやかしの安心だ。何も準備することなく、存在しない“親切な世界”に身を委ねてきた。わが国の現実逃避体質の非力さを、安倍元総理暗殺事件が象徴的に炙り出した。

 国全体が憲法9条の平和主義の影響下にあるからには、安倍氏暗殺を受けた政府の反応が呆れ果てるものだったのは当然であろう。

 世界戦略を描いて真っ当な国家の在るべき姿を説いてきた安倍氏は、これまでの日本には見られなかった稀有な政治家である。日本の宝だ。日本だけでなく先進7か国首脳会議(G7)で、当時のトランプ米大統領、メルケル独首相、マクロン仏大統領やジョンソン英首相らに信頼され、頼られる政治家だった。

 そんな首相がかつてわが国にいたか。安倍氏が初めてである。それ程大事な政治家が白昼易々と暗殺された。そのことが抉り出した日本国の脆弱さを中国、ロシアをはじめ世界中が目撃した。わが国を窺う勢力が日本与(くみ)し易しと思っても不思議ではない。

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