伝送路が変わってもラジオの文化を発信し続ける――檜原麻希(ニッポン放送代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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 今年、ニッポン放送の「オールナイトニッポン」が55周年を迎える。「オールドメディア」と呼ばれることもあるラジオだが、数々の長寿番組があり、コロナ禍下にあって自宅で過ごす時間が増えたため、リスナーが増えたという。ラジオの魅力とは何か。そしてこれからのラジオ局はどうなっていくか。

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佐藤 本日はこれから、月に1度、日曜深夜3時(月曜午前3時)から放送されている「高嶋ひでたけのオールナイトニッポン月イチ」の収録があるんです。

檜原 うかがっております。どうかよろしくお願いいたします。

佐藤 パーソナリティーの高嶋さんとは、「高嶋ひでたけのあさラジ」からのお付き合いで、森田耕次さんと組んでいる「高嶋ひでたけ・森田耕次のキニナル・サタデー」にも出演させていただいたことがあります。お互い妙に波長が合うところがあって、時々スタッフも交えて、食事に行ったりしているんです。

檜原 高嶋さんは大先輩です。いまもニッポン放送で活躍していただいています。

佐藤 今年で80歳です。「月イチ」は2019年からですが、高嶋さんは「オールナイトニッポン」の草創期のパーソナリティーで、およそ50年ぶりに復帰した、とおっしゃっていました。

檜原 2代目のパーソナリティーになりますね。「オールナイトニッポン」は今年10月に55周年を迎えます。当初は、ドライバーさんや看護師さんなど夜中に働いている人たち、あるいは勉強を頑張っている学生さんに向けて発信していました。パーソナリティーは日替わりで、選曲もすべて自分でやる。いわゆるアメリカのワンマンDJスタイルで、高嶋さんはその時代のひとりですね。

佐藤 元社長の亀渕昭信さんもその頃の「オールナイトニッポン」のパーソナリティーでした。

檜原 ええ。その後、タレントさんがパーソナリティーを務めるようになり、この番組から世の中の人気者を生み出したりもしました。また、深夜放送離れの時期もありましたが、それぞれの時代の社員がきちんと番組を継承してきた。だからこそ、今年、55周年を迎えられるのだと思います。

佐藤 私が中学生だった1970年代半ば、「オールナイトニッポン」が他の番組と違っていたのは、午前3時からの2部でした。その時間帯になると、他局はトラック運転手にターゲットを絞るんですね。でも「オールナイトニッポン」は、ドライバーを意識している部分はあっても、若者中心の構成でした。

檜原 そうですね。そこを貫いてきたことが、55年続いた要因の一つだと思います。

佐藤 檜原さんと私は、ほぼ同世代です。深夜放送はお聴きになっていましたか。

檜原 「オールナイトニッポン」はもちろん、TBSラジオの「パックインミュージック」、文化放送の「セイ!ヤング」などを、親に見つからないようにして聴いていました。あの頃は、深夜放送がすごく盛り上がっていましたよね。

佐藤 一大ブームでした。

檜原 私は中学時代、鎌倉に住んでいて、ニッポン放送が一番よく聞こえたんです。中学3年からは親の仕事の関係でフランスへ行ったのですが、当時、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドが大好きで、友達に頼んで宇崎竜童さんの「オールナイトニッポン」をテープに録音してもらい、フランスまで送ってもらっていました。

佐藤 熱烈なファンだったのですね。ラジオはリスナーとパーソナリティーとが非常に近く、濃密な関係になりますが、特に深夜放送はそうですね。

檜原 番組ごとにリスナーのコミュニティーというか、ファンダム(熱心なファンによる世界、文化)が生まれます。

佐藤 私は高嶋さんの番組で、ウクライナなど国際情勢について、相当に踏み込んだ話をしているんです。それはリスナーとパーソナリティーの信頼関係があるからできるんですよ。私はラジオの仕事を始めて15年くらい経ちますが、マイクの向こうの人たちの反応が何となくわかるようになってきました。ああ、これスベッたな、とか、これは受け止めてもらえたなとか。

檜原 マイクの向こう側の声は物理的に聞こえるわけではないけれど、聞こえてきますよね。空気がわかる。

佐藤 そこが面白い。私は、ラジオはニュース解説的なものに向いていると思っているんです。

檜原 そうですね。ポッドキャストでは、「飯田浩司のOK!Cozy!up!」と「辛坊治郎ズーム そこまで言うか!」が日本でトップクラスで聴かれているコンテンツです。ニューストピックスを深掘りしたところを聞きたいと思う方がたくさんいらっしゃる。

佐藤 辛坊さんはもちろん、飯田さんもよく勉強されていて、新潮新書で『「反権力」は正義ですか』という本を出されています。また、われわれ作家にラジオが有益なのは、継続的に本を買ってくれる読者が増えることです。テレビだと瞬間風速的な売り上げにはつながりますが、継続しないんですよ。それはかなり言いにくいことも含め、ラジオだから言えるということが影響していると思います。

檜原 昔は一回きりの放送で、言いっぱなしという面があり、スリリングなやりとりやギリギリの発言が出てくることが魅力でした。それがリスナーとの関係を強くしたところもあります。でもいまはネットの時代となり、後からでも番組が聴けるようになりましたし、誰もが簡単に意見や反論を発信できるようになりました。ですから、どこか不適切だったり、世の中の見方とかけ離れた発言をした時には、批判につながることもあります。そこは気を付けないといけないと思っています。

佐藤 そうですね。現場にいて、それは強く感じます。

檜原 ラジオは比較的自由なメディアだと思いますし、多様性に富んだ意見を紹介する役割があると思います。それができるのも、リスナーがパーソナリティーを好きであることが前提で、基本的に応援姿勢だからです。

佐藤 その通りです。もっとも、炎上とか批判にさらされるのは、その媒体がもともと信頼されているからです。信頼がなければ、起きません。

檜原 そうしたことはパーソナリティーの方々が一番身に染みてわかっているんじゃないかと思いますね。

佐藤 炎上だけでなく、訴訟リスクもありますから、世の中全体の流れの中でここまでは許容されるというギリギリの線をしっかり見ていますね。

檜原 ただ、いまの時代、タレントさんと接していると、人気があるのはどこか「優しさ」がベースにある人たちなんですね。やはりこれだけ不安定な世の中になると、「毒で制す」ではなくて「愛で制す」の時代なのかな、と思います。

佐藤 確かに毒舌系の芸人は減っていますね。これは芸能界だけでなく、役所でもビジネスの世界でも同じかもしれません。毒舌だと、情緒不安定なんじゃないか、と見られるようになっていますから。

檜原 失言や失敗は誰にでもありますから、それをどう乗り越えるかが重要です。それも含めて、ラジオならリスナーにパーソナリティーがどれだけ真摯に向き合えるかが重要なのだと思います。

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