総合菓子メーカーからウェルネスカンパニーに生まれ変わる――太田栄二郎(森永製菓代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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コロナ禍の中で「攻める」

佐藤 このコロナ禍は森永製菓にどんな影響を与えましたか。

太田 コロナ禍が始まった当初、2020年3月まではあまり影響を感じることはなく、結果的に2020年3月期は過去最高益となりました。それが4月になると、いきなり主力製品のinゼリーの売り上げが前年の半分になったんですよ。

佐藤 緊急事態宣言が発令されてから、大きな影響が出た。

太田 ええ。コンビニやドラッグストアには、普段通り並んでいるんです。でもそれが半分しか売れない。そして5月も半分でした。

佐藤 外出制限が直撃したわけですね。

太田 inゼリーは発売当初、「10秒でとれる朝ご飯」というコンセプトだったように、時間や場所が無い時の手軽な食事として利用されることが多い商品です。通勤通学する人が少なくなると、飲むシーン(場面)がなくなってしまうんですね。

佐藤 他の商品はどうでしたか。

太田 ハイチュウも8割ほどになりました。これも4月、5月の行楽シーズンに持っていくというシーンがなくなってしまった。

佐藤 一方で、巣ごもり需要で伸びた商品もあったのではないですか。

太田 ホットケーキミックスは、あっという間に店頭から在庫がなくなりました。

佐藤 ネットではプレミアをつけて売られていました。ニュースでも相当に取り上げられましたね。

太田 売り上げが2倍以上になりましたし、同じく巣ごもり需要でビスケットの販売も好調でした。ただ、ホットケーキミックスなどはできる限りの増産対応をしましたが、売上規模から考えるとinゼリーのマイナス分をカバーできないんです。

佐藤 その後、inゼリーは回復したのですか。

太田 これは回復を待つだけではダメだと思って、その後、inゼリーを飲むシーンを増やし、ターゲットを広げようとしたんですね。もともとinゼリーは朝食というシーンから、体調不良時の栄養補給や受験生の夜食などシーンを広げてきました。その過程で、子供からお年寄りまでターゲットが広がった。そこでコロナ禍でのニーズを捉えて、プロテインをより強化したり、考えるためのエネルギーになるブドウ糖を入れたり、また女性の間食向けにフルーツ食感のinゼリーも出しました。

佐藤 いろいろCMが流れていました。

太田 櫻井翔さんが在宅でトレーニングしながら飲むとか、テレワークしながら飲むとか、そうしたCMを通じて、新しいシーンを提案していったんです。

佐藤 守るのではなく、攻めたわけですね。

太田 その結果、コロナの1年目は年間で十数%減になりましたが、その後は順調に回復し、21年度はコロナ前の19年度を上回る売り上げになりました。

佐藤 決算報告のビデオを拝見しましたが、2022年3月期の全体の売り上げは過去最高なのですね。見事な手腕です。

太田 コロナ禍で一度落ち込んだのを回復させ、過去最高の売り上げになりました。ただ、喜んでばかりもいられません。利益は減っていますから。

佐藤 原材料の高騰ですね。

太田 弊社が使う原材料は、小麦や砂糖、そして乳などです。それらを中心に、菓子、冷菓、食品、健康に関わるさまざまな製品の原材料価格が上がっています。

佐藤 日本では国が小麦を一元的に輸入して各社に売り渡していますね。その価格は年に2度改定され、4月には17.3%上がりました。でも、それはまだロシアのウクライナ侵攻が考慮されていない数字です。2度目の改定がある10月には、もっと上がるのは間違いない。

太田 そうですね。今後も更なる原材料高騰に備えないといけないと思っています。

佐藤 いま、ロシアに占領されているウクライナの国土は、全体の5分の1ほどです。でもGDPは45%近い減少になるといわれています。それは工業地帯と小麦の取れる黒土地帯が、ロシアが占領する東部と南部にあるからです。今年はもう小麦の作付けも刈り入れもできません。だから、来年の4月はさらに高騰します。

太田 それに加えて円安もあります。弊社は昨年度の実績は1ドル115円、今年度予想の前提は128円です。円安で恩恵を受ける海外事業もありますが、それを含めてもマイナスインパクトの方が大きく、非常に厳しい状況です。

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