尹錫悦は「シャングリラ」で従中の馬脚を現した 後は「キシダ」を騙すだけ

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日韓議連も推す「共同宣言」

――日本はまた謝罪するのでしょうか?

鈴置;それを狙い韓国は「共同宣言の罠」も仕掛けています。尹錫悦政権はしきりに「1998年の日韓共同宣言の精神で関係改善を図ろう」と持ちかけてきます。

 日本人の多くは金大中(キム・デジュン)政権が日本文化開放に踏み切る契機となった宣言として覚えているでしょう。でも、韓国人にとっては「小淵恵三首相が植民地支配を謝罪した宣言」なのです。

「あの、日韓関係を劇的に改善させた共同宣言をもう一度やろう」と持ちかけ岸田政権に合意させれば自動的に、日本はまた謝罪することになるのです。「韓国で政権が変わるごとに日本は謝罪する」慣例の復活にも道を拓きます。

――そんな見え透いた罠に日本が引っかかるのでしょうか?

鈴置:日韓議員連盟の幹事長を務めた河村建夫・日韓親善協会中央会会長は週刊朝鮮のインタビュー「[単独]日韓親善協会会長『岸田、韓日首脳会談の早急な実施を待つ』」(5月15日、韓国語版)で次のように語りました。

・(「尹錫悦大統領に日本はどんな期待をしているのか」との質問に答え)パートナーシップ宣言[1998年の日韓共同宣言]の精神に再び戻るよう努力して下さることを期待する。日本側もこれに呼応することが重要だ。(尹大統領が)パートナーシップ宣言を発展させる提案もして下さればいい。日本側もそんな提案には応じるだろう。

 河村会長から日韓議連幹事長を引き継いだ武田良太・前総務相も毎日新聞のインタビュー記事「そこが聞きたい 尹政権と日韓関係 正常化に向け双方努力」(6月7日)で、以下のように語りました。武田前総務相は5月10日の大統領就任式に参加し、尹錫悦大統領と会談しています。

・日韓関係が最も良好だった1998年の「日韓共同宣言」のころに戻すべきだという共通認識を確認できた有意義な会談だった。

 少なくとも日韓議連では「新たな日韓共同宣言」は既定路線になっているのでしょう。毎日新聞が武田前総務相のインタビューをオピニオン欄で大きく報じたところから見て、「新・日韓共同宣言論」は日本の左派メディアの定番になっていく可能性が大です。

「米国に怒られるぞ」

――しかし日本には、親韓派への警戒感も根強い。

鈴置:確かに、自民党の外交部会などは岸田政権の「前のめり」を警戒しています。こうした「対韓原則派」ともいうべき政治家を孤立させようと、韓国は「日韓首脳会談を早急に開かないと米国に怒られるぞ」との情報を流しています。とにかく首脳会談を開き、人のいい岸田首相に共同宣言を呑ませてしまおう、との思惑でしょう。

――「首脳会談に応じないと米国に怒られる」のでしょうか?

鈴置:それは偽情報です。冒頭で述べたように「尹錫悦政権の二股外交」が明白になりました。米国自身が韓国を疑いの目で見ています。米国の外交関係者は聞かれれば「日韓関係の改善を望む」と答えます。だからといって米国を平気で裏切る尹錫悦政権をバックアップするつもりはありません。

 米国は韓国には冷ややかに対応していくでしょう。日本もそれに合わせ、韓国に過剰な期待を抱かず、冷静に応じていけばいいだけなのですが……。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。6月17日に『韓国民主政治の自壊』(新潮新書)が刊行予定。

デイリー新潮編集部

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