〈鎌倉殿の13人〉源頼朝と映画・仁義なき戦い「山守組組長」の意外な共通点

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作品の構造も共通点が

 では、頼朝配下の武士たちと山守組組員たちを結び付けているものは何かというと、粛正への恐怖と打算。やはり、同じ構図なのである。

 ちなみに好色というところまで頼朝と山守は同じ。頼朝は正室の政子(小池栄子)がありながら、亀(江口のりこ)を愛妾にして、生前の前妻・八重(新垣結衣)に色目を使い、今度は義時に嫁がせるはずの比奈(堀田真由)を狙っている。

 山守にも利香(木村俊恵さん)という妻がいるが、第3作「代理戦争」で弘美(堀越陽子)という若い愛人が登場。第4作「頂上作戦」では光川アイ子(同)というホステスに入れ込んだ。ほか、毎回のようにホステスや芸者たちに睦み合った。

「鎌倉殿の13人」の脚本を書いている三谷幸喜氏(60)も「仁義なき戦いシリーズ」は見ているはずだが、おそらく意識している訳ではない。面白い群像劇の基本は一緒なのだ。

 強烈な憎まれ役がいて、周囲が振りまわされる一方、その周囲も曲者ぞろい。力と力がぶつかり合う外敵との戦いより、利害が絡む内紛が厚く描かれる。

「鎌倉殿――」は源平合戦のクライマックスである屋島の戦いが省略されるなど戦のシーンが少ない。「仁義――」も内部抗争が物語の多くを占めた。振り返ると、大ヒットドラマ「半沢直樹」(TBS)も東京中央銀行内の内紛劇が中心だった。

「鎌倉殿――」と「仁義――」は様式美を否定し、史書を重視しているところも一緒。これもウケている大きな理由にほかならない。

 例えば引退した滝沢秀明さん(40)が主演した2005年の大河「義経」は、第1話で義経が京の五条大橋で弁慶(松平健)と戦った。その際、画面いっぱいに桜の花びらが舞った。幻想的で美しかった。様式美だ。

 半面、リアリティーは二の次。そもそも義経と弁慶が五条大橋で出会ったという話は明治期に生まれた創作なのである。また滝沢さんが演じた義経は凛々しく勇敢で、情け深かったが、これも史書の義経像とは程遠い。

 片や菅田将暉版の義経は残忍で自分勝手。日本人が長く愛してきた義経のイメージとは違うものの、『吾妻鏡』や『玉葉』などの史書に残された実像と近い。リアリティーを感じさせた。

「仁義――」も男の美学を描いた伝統的な仁侠映画とはまるで違った。仁侠映画で故・高倉健さんらが演じたヤクザは欲得抜きで命を捨てたが、山守たちは利害でしか動かなかった。

 もっとも、山守のほうが現実味を感じさせた。故・飯干晃一さんが書いたノンフィクションをベースにしていたからだろう。

 細かいことだが、両作品はストップモーション(静止画)を活用する点も一緒。また、人が次々と死んでゆく物語であるにも関わらず、作風全体が明るいところも同じだ。

「仁義――」は実録路線のヤクザ映画と称される。「鎌倉殿――」も実録路線時代劇と呼ぶべきかも知れない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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