【日大事件】新リーダーを決める「学長選挙」を控え、田中前理事長との決別と疑惑解明なるか

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 田中英寿・日本大学前理事長(75)が所得税法違反の疑いで逮捕され、理事長を辞任。その後、東京地裁で「懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円」の有罪判決。田中氏は控訴せず、一連の騒動は終わりを迎えた、という空気になっている。

あまり大学を変えたくない人たちが

 日本大学の改革も粛々と進み、第三者委員会および外部有識者による日本大学再生会議の答申書も出され、その答申に沿って、いま新たな学長選挙と理事の選任が進められている。

 学長選挙には2名が立候補。復権を狙う田中派が立てた候補と、改革を進めようとするグループが推す候補の対決かと、静かな注目を集めている。新学長候補は6月1日に開催される学長候補者推薦委員会(64名で構成)での「所信表明」と「質疑応答」を経て一人に絞られ、学長選出会議に上程されて決定する。

 学長候補のひとり酒井健夫氏(78)は、生物資源科学部(元農獣医学部)出身で、田中氏が理事長になった当初、総長を務めていた人物だ。学校教育法の改正に伴って日大でも総長制が廃止され、田中氏が理事長、酒井氏が学長と、上下関係が逆転した。田中氏とは盟友ともいえるが、わずか1期で学長を退いた経緯から、「学校教育法の改正を田中にうまく利用され、結局、田中に辞めさせられた人」(日大教員)との声もある。その意味では、「酒井候補=田中派」の象徴と断定はできないが、「あまり大学を変えたくない人たちが支持している」と改革派の教員たちは見ている。

 田中氏が逮捕された当初から心配されていたとおり、同氏が学外に追放されても、「ほぼ全員が田中派だった」「全員が田中の意向に従って仕事をしてきた」と言われる大学職員は、ほぼ全員が残っている。彼らが日々の業務を通して、ささやかな抵抗を続ける恐れがないとは言えない。そうした方向性を支える期待が、酒井候補には託されているのかもしれない。そしてもちろん、幹部職員の中には、密かに田中派復権を目論む一派もいるという。彼らが担ぎ上げたのが酒井候補だと、関係者たちは理解している。

やむを得ない選択

 加藤直人・現理事長が厳然と田中氏との決別を宣言している中、田中氏は有罪が確定した当日の4月13日に校友会本部が入る桜門会館を訪れた。日大は「大学施設への立ち入り禁止」を通知する内容証明郵便を送付したが、田中氏は14日と15日にも桜門会館を訪れ、校友会選出の理事らと面会したという。

 一般常識的には、田中氏の復権はありえないと思うが、こうした動きは、なし崩し的に田中氏の復権(院政支配)を狙う動きと警戒されている。そして、田中氏の復権を目論む人たちが担ぎ出したのが、酒井候補という見立てだ。

 酒井候補の高齢を案じる声もある。だがこれは「やむを得ない選択」と見られている。

「日大再生会議の答申で、田中前理事長の信奉者を要職に就かせないため、平成29年4月から令和3年8月までに、理事、監事、評議員だった者は再任できないと決められたため、候補になれない“失格者”が相当いるのです。そのため酒井氏のように、すでに一線を退いていた人しか候補がいなかったのでしょう」(日大教員)

 もうひとりの候補は、文理学部教育学科の広田照幸教授(62)だ。東京大学教育学部を卒業後、同大学大学院博士課程を修了。東京大学教授を退任し、2006年から日大教授になった。2015年から2021までの6年間、教育学分野で最大規模の学会である日本教育学会の会長を務めた人物だ。

 日大から見れば「外様」だが、すでに日大教授になって17年目。立候補には10名以上の推薦者が必要と規定されているが、広田候補の推薦人名簿には8学部33名が名を連ねている。学部を超えて、新たな日大を作ろうと願う教員たちの思いが託された候補と見ていいだろう。

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