自転車のサドル盗難、学校のプールに金魚を放った少女たち 大好きな珍事件について語る(中川淳一郎)

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 前回で「配達が面倒くさく7千通の郵便物を捨てた郵便局員」と「コロナ対策になると頑なに信じ、2カ月間プールの水栓を開け続け11倍の水道料金を発生させ市から訴えられて87万円を支払った中学教師」について書きました。私が「無能な労働者」関連ニュースが好き、と書いたら、担当のS編集者から「引っ越し屋の社員が顧客406人分の個人情報を自宅のゴミ捨て場に」というこれまた好ニュースを教わりました。

 これらと同時に、もう一つ気になるのが「なぜその発想に至ったのか」という類の珍事件です。こういうのは変態系が多いのですが、「中学校等に忍び込み女子生徒のリコーダー(縦笛)や女性教師のホイッスルを盗む男」は各所で発生しています。

 同様に、自転車のサドルを大量に盗む男もなぜか存在します。東大阪市の男は、25年間かけて5800個のサドルを盗み、保管庫には月10万円かけていたそうです。東京都大田区でも159個盗んだ男が逮捕されました。この手の男の一人は警察の取り調べに対し「女性の自転車を見分けられる」と供述したとのこと。すごい特殊能力です。サドルはビニール袋に入れ、ニオイを保管するのだとか。

 さらによく分からないのが、不動産サイトSUUMOのマリモ状のキャラのビニール人形16体を不動産仲介業者から盗んだ大阪の男です。盗んだ理由は「癒やされる」。これらについては被害者がいるのでおおっぴらに「好物」と言うのは憚られるものの、自分の発想の斜め上を行く発言には仰天しました。

 そして、私が非常に好きなエピソードが、2012年8月に埼玉県狭山市の中学校で発生した3年生女子生徒4人が建造物侵入と器物損壊の疑いで書類送検された件です。朝日新聞デジタルの記事によると、夏祭りの売れ残りの金魚約400匹を譲り受けた中学生は、過去にも有刺鉄線を切り、夜のプールに侵入して泳いでいたといいます。

 そして「水面に大量の金魚が泳いでいたら、きれいに違いない」と考えた一人の発案に他の3人も意気投合し、金魚を放流し、半裸で泳ぐも、暗すぎて「水面に金魚」という美しい光景は見られなかった──。いや、半裸って……。

 その後、プールは使用中止となり、水の入れ替えにより16万円の費用がかかったと同中学の校長が憤ったそうです。生徒たちは「みんなに迷惑をかけて申し訳なかった」と反省しました。この騒動にインスパイアされた長久允氏は、短編映画「そうして私たちはプールに金魚を、」という作品を作り、「第33回サンダンス映画祭」ショートフィルム部門のグランプリを受賞するというオチが付きました。

 なんだかこの騒動、私は愛おしさを感じてしまうんですよ。大切な仲間と夜のプールに忍び込んで夏休みも後半になった頃、処分に困った金魚を放ち、後に親と一緒に出頭する。しかも、この金魚は水泳部員らが回収し、希望する生徒や地元住民にあげたそうです。これも不謹慎かもしれませんが「元気があってよろしい!」と思ってしまう。彼女たちも今は24~25歳。どこで何をしているのですかね。

 それにしても金魚、塩素で死なないのか?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年5月26日号掲載

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