山下智久「正直不動産」はドラマ界のトレンドを変えられるか

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 山下智久(37)が主演しているNHKの連続ドラマ「正直不動産」(火曜午後10時)が評判高い。おそらく話題性も観る側の満足度も4月期ドラマの中でナンバーワンだろう。ドラマ界の潮流を変える可能性すらある。

「正直不動産」はコミカル味がコーティングしてあるが、本質は硬派作品。観る側に「働くこと」と「生きること」の意味を考えさせる。

 目頭が熱くなるシーンも多い。感動を与えてくれる。観終えた後は爽快な気分になる。これが評判高い理由にほかならない。

 観る側はドラマにさまざまな内容を求めている。考察やラブロマンス、笑い、スリル、メッセージ、感動などだが、うちメッセージと感動は近年、おきざりにされてきた。また観る側に自分に関わりのあることを考えさせる作品は絶滅状態に近い。

 こういったドラマから失われつつあるものが、「正直不動産」にはある。だから新鮮であるうえ、出演陣の演技や映像処理、小田和正(74)によるエンディングテーマソング「so far so good」が出色なので、満足度が高い。

 不動産会社の騙しの手口も分かる。不動産業界が大口スポンサーである民放では描けない深部にまで踏み込んでいる。民放が大量にCMを流しているアパートなとのサブリースのリスクが代表例である。第1話で分かりやすく説明された。

 第7話で扱われたリバースモーゲージのデメリットも民放では盛りこむのが難しいに違いない。やはり大口スポンサーである銀行業界が力を入れている商品だからである。

 とはいえ、このドラマの最大の売りはメッセージと感動、さらに考えさせることである。テレビ局の連続ドラマ枠は現在、プライムタイム(午後7時~同11時)に17もあるが、ほかにメッセージと感動があり、自分に関わりのあることを考えさせる作品はあるだろうか。

なぜ「考えさせない」ドラマが主流になったのか

 さまざまな作風のドラマがあるのが観る側にとって理想であるものの、各局が談合しているわけではないので、そうはいかない。どうしても偏る。

 TBS「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)や同「恋はつづくよどこまでも」(2020年)が高視聴率を記録すると、他局もラブコメに力を入れる。日本テレビ「あなたの番です」(2019年)が当たると、今度は考察モノが増える。

 民放は視聴率獲得が第一目的なので、やむを得ない面もある。NHKも半ば強制的に徴収する受信料で運営しているのだから、誰も観ないドラマをつくるわけにはいかない。

 半面、観る側にとって視聴率は目安の1つに過ぎない。全く関心のない人も多いはず。観る側にとって重要なのはドラマの質。ここにテレビ局側と視聴者側の埋めがたい深い溝がある。

 近年は高視聴率を記録しても、記憶に残らないドラマが増えた。メッセージがすっぽりと抜け落ちている上、感動もなく、考えさせないドラマが大半になったからである。その傾向は2010年を過ぎたころから始まった。

 なぜ、メッセージも感動もなく、考えさせないドラマが主流になったのか。答えは単純明快。そういったドラマは評価は高くても視聴率が獲りにくいからだ。

 例えば昨年1月期に放送された長瀬智也(43)主演の「俺の家の話」(TBS)はギャラクシー賞優秀賞を得て、磯山晶プロデューサー(54)は芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。やはりコミカルな味付けがしてあったが、親子や家族、生き方を考えさせる骨太のドラマだった。「刺さる」と評判になった。

 けれど全10話の視聴率は世帯が9.2%で個人は5.3%。平凡だった。これでは視聴率を第一目的とするテレビ局としては同様の作品づくりに積極的にならない。

 昨年4月期に放送され、松たか子(44)が主演した「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ制作、フジ系)もギャラクシー賞優秀賞を獲り、文化庁芸術祭優秀賞を得たものの、全10話の平均視聴率は世帯5.7%、個人3.2%だった。

 このドラマも結婚や恋愛、友情、生き方について考えさせた。熱狂的なファンを生んだ。だが、やはり視聴率至上主義のテレビ局としては同系統の作品の制作には二の足を踏む。

「正直不動産」の場合、5月17日放送の第7話までの平均値は世帯5.6%、個人2.9%。やはり視聴率と評価が一致していない。

 いつから評価が高くても考えさせるドラマは視聴率が獲れなくなったのだろう。

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