完全試合が相次ぐ「投高打低」の異常事態 謎を解くキーワードは「打撃革命」

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スモールベースボールを軽視

 MLBでは19年シーズンに史上最多のホームラン数が記録された。「野球の華」とされる本塁打の量産でエンターテインメント性がアップしたかと思いきや、ホームランか三振かという野球は大味で、イチローもかねてより、「頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」とMLBの将来を危惧するほどだった。

 MLBの野球は常にNPBへと輸入されてきた歴史がある。近年はMLBでの成果を目の当たりにして、フライボール革命に影響された打者が数多く出現。ソフトバンクの柳田悠岐、西武の山川穂高のほか、オリックスの吉田正尚、西武の森友哉ら、小柄でもアッパー気味にフルスイングする打者が好成績を残してきた。先のスコアラーが続ける。

「それでも、メジャーと比べると、大抵の日本の打者はパワーに欠ける。そのせいで、フェンスを越さない淡泊な飛球や凡打が増えたのではないだろうか。日本野球の真骨頂といえば、バントやエンドランの小技に機動力を絡めたスモールベースボールだった。フライボール革命の影響でこれをおざなりにしたことで、投高打低になっていることは否定できない。特にDH制があって、投手と打者の力対力の勝負が色濃いパ・リーグでその傾向が強くなっている」

 この推測は核心を突いているように聞こえる。

悲願のWBC制覇は遠のくか

 日本代表は2006年、09年とワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で2連覇を果たした。パワーを前面に出した米国やドミニカ共和国などの強豪国とは一線を画し、まさにスモールベースボールで世界の頂点に立ってきた。

 先のスコアラーは、「フライボール革命の弊害で、日本の長所は失われつつある。力のない打者があの手この手で敵の好投手を攻略する攻撃は激減した。緻密な野球を志向していた野村克也監督や落合博満監督がNPBを去り、今はロースコアの試合でさえ投手戦ではなく、貧打戦だ」と劣化を嘆く。

 来春にはそのWBCが開催される。日本はメジャー選手が参加しなかった東京五輪でこそ金メダルを獲ったものの、WBCの最近2大会は、13、17年ともにベスト4にとどまっている。WBC優勝を経験した元コーチは日本野球の行く末を憂慮する。

「メジャー選手と同じ土俵で通用する打者は、日本人では大谷ぐらいだろう。本来、体格に恵まれない多くの打者はアッパースイングではなく、安打狙いの打撃の習得が必須。このままでは覇権奪回は遠い」

津浦集(つうら・しゅう)
スポーツライター

デイリー新潮編集部

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