ヤクルトのエースに憧れ、海を越えたパラグアイの日系二世…独立リーグ・高知が描く“未来図”

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地域密着のスポーツクラブの「未来図」

 武政が語るように、その“身の丈”に合わせ、高知の経済規模も踏まえた上でのスポーツクラブの経営、さらには選手育成が重要になってくる。

 すでに高知では、独立リーグとサッカーの経営母体は別ながら、事務所は合同で構え、営業や地域貢献活動を一緒に行ったりするなど、経営面での効率化も図っている。

 ただ、「経営を一緒にするとなれば、まだハードルがある」と武政は言う。独立リーグの場合、現在の親会社は、地元の「明神水産」の1社オーナー制。サッカーは、44の企業、団体、個人が株主になっているという。

 しかも、コロナ禍の影響も受けて「今のところ(野球とサッカーの)2社とも赤字。一緒にやれば、とおっしゃってくれる方々もいますが、今がそのタイミングなのかどうか、ですね」と、2社の社長としてはシビアな見解も示している。

 それでも、こんな「未来図」は決して夢物語ではないだろう。

 野球とサッカーが大同団結した「高知スポーツクラブ」ができる。そこに、選手育成の「アカデミー」としての役割を充実させる。高知球団が野球、高知ユナイテッドSCがサッカーで、高知県の若手選手たちを育成していく体制を整える。

 そこに、小・中・高校生たちが入ってくる。さらに、日本語教育のカリキュラムなども充実させ、セカンドキャリアに備える仕組みも整えておけば、高知県外の日本人、さらには外国人にも「高知」という地域スポーツに注目させる、一つの大きな魅力になってくる。

 スポーツクラブで結成した、日本人と外国人の高校生たちによる「野球」のチームが甲子園を目指し、「サッカー」のチームが国立競技場を目指す――。

 独立リーグやサッカーが、地域における「エンタテインメント」の位置づけとして、十分に定着してきた。ただ、それだけに終わるのではなく、次のフェーズとして、人生のキャリアパスの中で、選択肢の一つとしての役割を付加していく。それが地域振興につながり、コミュニティの拡大にも繋げられる可能性もある。

 地域密着のスポーツクラブ。その未来図に、地域のニーズにも則した付加価値をつけていく。それが、今後の地域スポーツに課されている新たなテーマなのかもしれない。

 小さな町で奮闘する球団の姿に、明るい未来が繋がっていると信じたい。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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