お笑い第七世代ブームの終焉 彼らはなぜ新しい笑いを作っていると言われたのか

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

Advertisement

過去にもあった「若手」ブーム

 若い世代の芸人が注目されてブームになるという現象は、お笑いの歴史の中では何度も起こっていることだ。大衆は常に新しいスターを求めているので、若くして頭角を現すスター候補の芸人が何組か現れると、そこから大きなムーブメントが生まれる。

 ビートたけし、島田紳助、島田洋七らを輩出した1980年の「漫才ブーム」のときにも、ウッチャンナンチャン、ダウンタウン、B21スペシャルらを輩出した1990年前後の「お笑い第三世代ブーム」のときにも、同じような現象が起こっていた。

 第七世代の芸人たちが注目され始めたのは2018年である。この年に行われた3つの大きなお笑いコンテストで、立て続けに20代の芸人が優勝を果たしたのだ。ピン芸人の大会「R-1グランプリ」(当時の表記は「R-1ぐらんぷり」)では濱田祐太郎、コントの大会「キングオブコント」ではハナコ、漫才の大会「M-1グランプリ」では霜降り明星がそれぞれ栄冠を勝ち取った。

 彼らの活躍によって、新しい世代の若手芸人が続々と台頭してきているというイメージが作られた。そして、同じ時期にバラエティ番組で宮下草薙や四千頭身などの若手芸人も活躍し始めていたため、彼らの総称として「第七世代」という言葉が生まれ、それが広まっていった。

 ブームの渦中では「第七世代の芸人は上の世代とは違う新しい笑いを作っている」などと言われることもあった。もちろん、そういう側面がないわけではないが、いつの時代も「笑い」は「笑い」であって、世代によって人を笑わせるためにやることの中身がそれほど大きく変わるわけではない。

 ただ、第七世代がブームの頃は、世の中の空気が急速に変化した時期でもあった。容姿イジリなどの「人を傷つける笑い」が敬遠されて、「優しい笑い」が求められるようになってきた。そのような時代の変化と第七世代ブームがたまたま重なっていたために、新しい世代の芸人がその期待を背負う存在として注目されたようなところもあった。

 第七世代ブームは終わった。持ち上げられていた芸人にとっては、追い風がなくなって冷静に見られるようになった今が本当の勝負時だ。最近では、かまいたち、見取り図、ニューヨークなどの「第六世代」「6.5世代」と言われる上の世代の芸人が勢いを増していて、お笑い界を席巻しつつある。熱狂的なブームの終わりは、激しい競争の始まりでもあるのだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。