子どものマスク、ワクチン接種を推奨せず… 「コロナ終結宣言」スウェーデンに学ぶ教訓

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 この2年間、多くの先進国で、感染者数が増えるたびロックダウンが繰り返された。だが結果的にはそれらの国々より、一度もロックダウンを採用しなかったスウェーデンのほうが、超過死亡率は低く、経済的損失も少なかった。同国の経験から学ぶべき教訓とは――。【宮川絢子/カロリンスカ大学病院医師】

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 スウェーデンは2月9日をもってほぼ全ての規制を撤廃し、新型コロナウイルス流行以前の日常が戻ってきた。日も一日一日長くなり、春の訪れを感じさせる街中では人出も増えたが、屋外でも屋内でも、マスクを着けている人はほとんど見当たらない。オミクロン株の感染が収束する前に規制が撤廃され、感染の再拡大が心配されたが、新規感染者、重症者、死亡者いずれも減少の一途である。

 スウェーデンは、先進国としてロックダウンを選択しなかった稀な国の一つであり、同時に“マスクをしない国”として注目を集めてきた。昨夏、イギリスからスウェーデンに転居してきた友人は、空港では何のチェックもなく自由に入国でき、人々がマスクをしていないスウェーデンの地を踏んで、「全く違う惑星にやってきたみたい」との感想を持ったという。

 同国のコロナ対策は、時に諸外国から強い批判を浴びたが、その中には誤解に基づくものもあった。人口あたりでの死亡者数でいえば、確かにスウェーデンは日本より多くの犠牲を出したが、2020年から21年の超過死亡率(平年と比べてどれくらい死亡者が増えたかを示す指標)はヨーロッパで最も低い国のうちの一つである。日本でもまん延防止等重点措置が解除されたこのタイミングで、スウェーデンのこれまでの対策を振り返ってみたい。

「緩い対策」を選択

 そもそも、コロナ禍以前は、マスクが感染防止に有効だという医学的な根拠はないと考えるのが国際的なコンセンサスだった。スウェーデンの公衆衛生庁は、「マスク着用によって、ソーシャルディスタンスを取らなくてよい、という誤ったメッセージを送ることになる」として、着用を呼びかけなかった。根拠が不確かなマスクより、ソーシャルディスタンスを優先したのである。現在でも、マスクはあくまでも補助的な役割と認識されている。

 たしかに、1日あたりの新規感染者が1万人を超えた20年末には、公共交通機関内やショッピングセンターなどでマスク着用が「推奨」されるようになったが、それでも屋内での着用率は高い時でも過半数程度であり、屋外ではマスク着用は少数派だった。

 また、ロックダウンについても、感染拡大を防ぐという科学的な根拠はないとされていた。だからこそ、スウェーデンのコロナ対策の“顔”となった公衆衛生庁の国家疫学官アンデシュ・テグネル氏は、ロックダウンをせずに国民の自主性に任せる「緩い対策」を選択した。一方、「ロックダウンをしない」というのが欧州の疫学者たちのコンセンサスであったにもかかわらず、各国は次々とロックダウンを採用していった。これについて、テグネル氏は後に「非常に驚いた」と語っている。そのテグネル氏も今年3月14日付で職を辞したが、世界保健機関(WHO)に移ると見られている。

ほぼ通常の生活を送った子どもたち

 スウェーデンも、感染に脆弱な高齢者などの高リスクグループを保護することは、対策の一つの柱としていた。同時に、感染対策に比重が偏り過ぎれば、他のグループに対する副作用が大きくなることを常に警戒していた。殊に、子供たちが通常の生活を送れるようにすることが常に重要視されてきた。

 実際、スウェーデンではコロナ禍のさなかでも保育園や小学校が閉まることはなかった。マスク着用義務も黙食義務もなく、子供たちはほぼ通常の生活を送ってきた。公衆衛生庁は、ロックダウンやマスクには感染抑制のエビデンスがないこと、子供たちの教育を受ける権利、健康な生活を送る権利を守らなければならないことを強調し、感染対策に偏らない広い視野で、対策のベネフィットと副作用をてんびんにかけることが重要だとした。その結果、集会や課外活動などの制限、大学生や高校生のオンライン授業、企業におけるリモートワーク、床面積から計算した店舗への入場制限、ソーシャルディスタンスの確保が対策として行われてきた。

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