取り調べでカツ丼はNG、捜査員は遺体に手を合わせる… 警察監修「五社巴さん」が語る刑事ドラマのリアル

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 4月期ドラマは刑事が登場するドラマが多い。うち、誘拐が描かれる「日曜劇場 マイファミリー」(TBS)など6本のドラマの警察監修を担当するのはチーム五社。元刑事や鑑識課員ら12人の集団だ。率いているのは五社巴さん。往年の名映画監督・五社英雄さんの一人娘である。

 刑事が容疑者を取り調べる際、カツ丼などの食べ物が登場する刑事ドラマが今もある。チーム五社が監修する場合は「やめたほうがいい」と助言する。

「カツ丼を食べさせたら、供述を引き出すための利益供与になってしまいますから、あり得ないことなんです。カツ丼を食べさせたことが裁判中に分かると、供述が無効になりかねません」(五社巴さん、以下同)

 チーム五社が強く止めるのは違法捜査が行われるシーン。世間に誤解が広まる上、刑事ドラマのリアリティが著しく損なわれるからである。

「捜索令状もないのに事件に関係する人物のアパートの部屋に入ったり、証拠になりそうなものを刑事が勝手に持ち出したりするシーンがあったら止めます。そんなことをしたら起訴できないんですから」

 チーム五社は杓子定規に現実の警察に合わせようとしているわけではないという。一定のリアリティを保つことが刑事ドラマの質の向上につながると信じている。

 たとえば内野聖陽(53)が凄腕で人情家の検視官に扮した2009年の「臨場」(テレビ朝日)以降、刑事ドラマに登場する鑑識課員や捜査員は遺体に向かって手を合わせるようになった。

 実際の警察関係者たちも行っていることである。このシーンが加わったことにより、刑事ドラマのリアリティは増した。それらしくなった。

「臨場」を監修したのはチーム五社の立ち上げメンバーで元警視庁捜査1課刑事の飯田裕久さん(故人)。飯田さんの助言により、「警察官関係者は遺体に手を合わせる」という認識がドラマ界に広まった。

現実と違う要素も…

 逆に、観ているとリアルに感じるものの、本当は現実と違うケースもある。ひとつは警視庁捜査1課の刑事たちが背広の襟に付けている赤くて丸いバッジだ。

 このバッジは昭和期のドラマには登場しなかった。所轄の刑事たちだけで、いかなる大事件も解決してしまい、捜査1課はほとんど関わらなかったのだから、当然だった(日本テレビ「太陽にほえろ!」(1972年~1986年)など)。

 それと比べたら、捜査1課の刑事に赤いバッジが与えられるのは事実だから、「近年のドラマはリアルだ」と感じさせる。ところが、現実の捜査1課刑事はバッジを外していることがほとんどなのだそうだ。

「捜査中にバッジを付けていたら、わざわざ『オレは捜1の人間だ』と宣言しているようなもので、おかしいじゃないですか(笑)」

 なるほど、確かにそうだ。容疑者がバッジを見て逃げてしまうかも知れない。ただし、ウソではないので、バッジについてはチーム五社は、許容範囲内と捉えている。

 今は少数派だが、警察監修がない刑事ドラマもある。すると、フジテレビ「踊る大捜査線」(1997年)の時代までリアリティが戻ってしまうのだという。

「制作スタッフの意識は『踊る――』が基本線ですね。あのドラマは警視庁本部を『本店』、所轄を『支店』と呼んだところなどがリアルで、当時としては画期的でしたが、今の刑事ドラマはリアリティが進化しています」

「踊る――」はキャリア(国家公務員採用総合職、旧I種)と準キャリア(国家一般職、旧II種)、ノンキャリア(都道府県警察本部採用の地方公務員、警視正から国家公務員)の立場の違いを明確にしたところも新しかった。

 それまでの刑事ドラマは所轄の課長や係長クラスが大事件の指揮権を持っていることもあったが、そうではないことを知らしめた。

 半面、「踊る――」で織田裕二(54)扮した青島俊作は、ノンキャリアでありながら、柳葉敏郎(61)が演じたキャリアの室井慎次と時に対等の目線で話した。

「あり得ません。警視庁だけで約4万6000人の職員がいるのですから、上下関係をはっきりさせておかないと、組織が成り立たないんです。ただし、キャリアは若い時にノンキャリアに実務を教わるなど世話になっていますので、威張ることもありません。そもそもキャリアは管理職。最初から立場が全く違うのです」

 綾野剛(40)と星野源(41)が機動捜査隊員に扮したTBS「MIU404」(2020年)もチーム五社が監修した。

「110番通報が入ったら、まず機動捜査隊が現場に行くというところから説明させていただきました。さらに捜査の方法や、隊員たちの食事は自分たちでつくることなどを助言しました」

 綾野と星野が乗った覆面パトカーがメロンパンの移動販売車という設定になったことには、チームのメンバーも苦笑したという。

 なにしろチームリーダーの久保正行氏は第62代警視庁捜査1課長。地下鉄サリン事件(1995年)には検視官として現場に赴いた。

 高卒で警視庁入りした久保氏は働きながら夜間大学に通い、第7方面本部長(警視正)まで登り詰めた。ノンキャリア組の星だ。

「ほかにも2課(詐欺や横領などを担当)や3課(窃盗などを担当)、組対(組織犯罪対策課)、5課(薬物などを担当)の経験者がいます。最近は刑務所全般の知識をもった元刑務官や元検事正も加わり、ツワモノがそろっています」

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