中国が早くも「尹錫悦叩き」、米国は「なんちゃって親米はやめろ」

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「ウクライナ」で露わの異質性

「対ロ輸出や投資で損をするから制裁に加わるべきではない」と多くの韓国人が考えています。左派政権だけでなく、保守系紙もそう主張しました(「『親米大統領』誕生でも韓国は「離米従中」 李朝末期にどんどん似てきた」参照)。

 米政府はスナイダー研究員らの言葉を借りて、「肝心な時に裏切る韓国」に強い警告を発したのです。

 これに気押され、文在寅政権は対ロ制裁に遅れて参加しました。しかし米国は韓国をますます信頼のおけない国と確信したことでしょう。ウクライナで市民が平然と殺され世界の人権が危機に瀕しているというのに、知らん顔をしたのです。

 米国が「自由と民主主義」という価値観を全面に押し出して西側の結束を図った時、同盟国の中で韓国だけがソッポを向いたのです。米国はそんな韓国をまともな同盟国と見ません。

 聯合ニュースの「尹、『NSC常任委員会を開き、ウクライナ在留国民の安全を確保せよ」(2月25日、韓国語版)によると、尹錫悦候補のウクライナ侵攻に対する最初の反応は「経済制裁などにより、我が国の企業が被害を受けないよう徹底的に備えなければならない」でした。

 経済制裁に加わってロシアから報復されたら損なので、それは避けよう、と主張したのです。韓国の裏切りは「文在寅の異質性」が原因ではありません。「韓国の異質性」そのものによるのです。

日本の従韓派も暗躍

――だんだん、構図が読めてきました。

鈴置:尹錫悦氏が当選した直後から、日本語のネットや紙媒体で「米国は親米派の新政権を全面的に支持している。日本は韓国と関係を改善しないと米国から叱られる」といった解説が急増しました。それを主張する人のほとんどは、韓国大使館や領事館と近い人々です。要は、日本の「従韓派」です。

 岸田文雄氏は外務大臣時代に韓国に2度、譲歩して裏切られた(「岸田首相から3匹目のドジョウ狙う韓国 米中対立で日本の『輸出規制』が凶器に」参照)。韓国もさすがに3回目は難しいと思ったのでしょう。今度は「米国」を持ち出して騙しにかかったのです。

 自民党関係者によると、国会議員の中にも「日米関係を良好に保つために、韓国と関係を改善しよう」と声をあげる人が出てきたそうです。東京で開かれるQuad首脳会議に「+1」の形で尹錫悦大統領を参加させたい、との韓国側の希望に沿ったと思われます。

 従韓派は次第に、韓国との関係を良くするためには譲歩が不可欠、と言い出します。「尹錫悦政権は国会で少数与党。日本の譲歩なしでは関係改善に動けない」との理屈です。これも韓国側の主張そのままです。

 もっとも、自民党も韓国には騙されっぱなしですから、さすがに「本当に米国側に戻るのか、様子を見よう」との意見が党内で大勢を占めたそうです。様子見をしているうちに、VOAの「Quad+1は認めない」との報道が出て、「米国は尹錫悦政権を全面的に支持している」「韓国のQuadを拒否する日本は、米国の不興を買っている」といった従韓派の主張は嘘だったと露見してきたのですが。

「日本には必ず謝罪させる」と公約

 従韓派が語る尹錫悦氏の「対日融和路線」も怪しくなってきました。選挙期間中、元・慰安婦に対し尹錫悦氏は「必ず日本に謝罪させる」と約束したと報じられています。

 聯合ニュースの「韓国慰安婦被害者『次期大統領が問題解決を約束』」(3月18日、日本語版)が伝えています。そして尹錫悦氏の当選直後から、韓国の左派は「公約を守れ」と要求し始めました。尹錫悦大統領は日本にもう一度、謝罪させる必要が出てきたのです。

 仮に、尹錫悦氏が米国側に戻る決意があっても、報復をちらつかす中国を恐れて国民は逡巡する。日本と関係を改善しようにも「日本叩き」の楽しみを奪われる国民は怒りだす――。韓国は保守政権になっても依然、米中二股でやるしかない。板挟みは続きます。

 そもそも、尹錫悦氏の大統領選挙での得票率は48・56%に過ぎません。次点の李在明(イ・ジェミョン)氏は47・83%、3位の沈相奵(シム・サンジョン)氏は2・37%。次点、3位の左派候補の票を足せば、半数を超えるのです。韓国は本質的に「左派の国」になりました。大統領の性向だけで見ると誤ります。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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