ゼレンスキーの演説が人の心を動かす理由 「対比」「繰り返し」「押韻」…専門家が分析
政治の素人であることがプラスに
ゼレンスキー青年は大学在学中に「第95街区」というコメディー劇団を結成。その後、設立した同名の芸能プロ兼番組制作会社にはオレナ夫人も脚本家として所属し、テレビ番組などの脚本を手掛けてきた。
同社が制作したドラマ「国民の僕(しもべ)」がテレビで放映されたのは15年。
「そのドラマで彼が演じたのが、腐敗政治を批判して大統領になる高校教師の役でした。それをきっかけとして、若者を中心に人気が大爆発したのです」(岡部氏)
その追い風に乗る形でドラマと同名の政党「国民の僕」を設立。政治や従軍の経験がないまま19年の大統領選に挑み、73%もの得票率で当選を果たしたのだから、これは「現代のおとぎ話」とでも言うべきか。
「ウクライナでは政治家や役人による汚職がはびこっており、選挙の際は“政治家ではないこと”がプラスに働くことがあります。例えば、キエフのビタリ・クリチコ市長も元々はボクシングの世界ヘビー級チャンピオン。大統領選に挑んだ際、ゼレンスキー氏も政治の素人であることが国民に好感をもたれました」(同)
91%という支持率
就任後は思うように政治腐敗に切り込むことができない上、自身の資産をタックスヘイブンに移していたことが発覚するなどして支持率は低迷。しかし、ロシアの侵攻後、調査機関がウクライナの18歳以上の国民2千人を対象に行った世論調査では、91%という支持率を記録した。
「事態が膠着すると、彼が一番得意とする『言葉の力』が生きてきた。各国の議会で議員に向かって訴えかけていますが、まさに彼の言葉が世界を動かしているのだと思います」(同)
目に見えないその「力」は徐々に、しかし確実に「狂気の独裁者」を追い詰めつつある――。
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