「終戦直前に空襲を経験」 俳優・北村総一朗が明かすウクライナ侵攻への思い
〈不良債権〉〈金融破綻〉といった不穏なワードが巷に溢れた1990年代後半。暗い世相をものともせず、大ヒットを記録したのは97年に放送されたテレビドラマ「踊る大捜査線」だった。
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その一端を担ったのが、ベテラン俳優の北村総一朗(86)。織田裕二(54)が演じる青島刑事が所属する警視庁湾岸署の署長という役回りで、“お堅い管理職”とはほど遠い、飄々としたキャラで話題を呼んだ。
その北村が演出を手掛ける劇団昴の舞台「一枚のハガキ」が、東京・スペース・ゼロで今月16日に開幕した(20日まで)。
「10年ほど前にこの映画を見た時に、舞台にしたいと思ったんです。各地を巡り歩くロードムービーだったので、舞台にするのは無理かなと一度はあきらめていた。それでも心の中にはこの作品が残り続けて、2年前だったかな、改めて舞台化を決意したんです」
と、意気込みを語るのは北村本人。太平洋戦争の末期にフィリピンへの出征を命じられ、生還を諦めた中年兵士が妻から届いた一枚のハガキを戦友に託して……という物語だ。新藤兼人監督が2011年に自らの体験をもとに撮影した作品で、監督は翌年に他界。いわば遺作である。
焼夷弾のせいで街中が燃えていたのに…
「新藤監督の“戦争を許してはいけない”という強い意志を感じるんです。僕は9歳の時に終戦を迎えた、子どもながらに戦争を体験した世代。改めてこの映画を見たら、僕の中で戦争が風化しつつあることに気がついた。まるで監督に頬を引っ叩かれた気がしましたね」
上演を前にして、ロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切る偶然が重なった。
「戦争は戦う男だけでなく、銃後の女性や子どもたちに辛く悲しい経験を強いたり、生活を塗炭の苦しみに追いやります。だから、ウクライナのニュースを見ると強く胸が痛みますよ」
理由は自身の体験にある。
「終戦直前の7月に、僕は故郷の高知市で空襲を経験していましてね。幸い実家は高台にあったので被害は免れましたが、防空壕から這い出て市内に目をやると、深夜なのに一帯が明るくなっていた。焼夷弾のせいで街中が燃えていたのに、僕はほんの一瞬、“綺麗だな”と思ってしまった。後から聞くと、あの空襲で400人以上の方が亡くなり、たくさんの民家が焼け落ちていた。幼かったとはいえ、あんな言葉が頭に浮かんだことを、本当に恥ずかしく思いました」
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