「妻、小学生になる」最終回 視聴者の胸に刺さるドラマになった理由

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 1月期ドラマで最も反響の大きかった作品はTBS「妻、小学生になる。」(金曜午後10時)ではないか。その最終話が25日放送される。どうして観る側の胸に刺さったのか(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 10年前に交通事故死した新島貴恵(石田ゆり子)の魂が、10歳の小学4年生・白石万理華(毎田暖乃)に憑依したところから、物語は始まった。その後の貴恵は夫の圭介(堤真一)と娘の麻衣(蒔田彩珠)を叱咤激励し続けた。

 貴恵は死んだ時点で成仏できず、魂がこの世に残り、万理華に憑依する前から家族の幸せをずっと願っていた。生前の貴恵はしっかり者だったが、死んだ後も気丈だった。

 けれど第9話の終盤で脆さを見せる。自分が消えることが家族や周囲にとって一番良いと考え、成仏しようとしたが、逝けない。

 体を借りていた万理華に「いいの? 本当にサヨナラして」と問われると、泣き崩れてしまう。

「もう1度だけでいいから会いたいよ。家族に会いたい…」(貴恵)

 貴恵の心の奥底が、幼い万理華の無垢な問い掛けにより、さらけ出された。成仏できなかったのは圭介と麻衣が心配でたまらなかったためだが、それ以上に貴恵自身が家族から離れたくなかったのだ。

 涙が止まらない貴恵の頬を万理華が両手でやさしく包み込んだ。すると貴恵の魂が万理華に入った。2度目の憑依だった。けれど今回の憑依は前回とは根底から異なった。

 前回の憑依は泣きじゃくる万理華を貴恵が慰めた瞬間に起きた。万理華が泣いていたのは母・千嘉(吉田羊)から虐げられ、「あんたのせいで、あたしの人生メチャクチャだよ」と突き放されたせいだ。

 前回は「家に帰りたくてたまらなかった貴恵の魂」が、「家に帰りたくない万理華の体」に入った。プラスとマイナスの願いが重なり合い、思いがけず憑依が起きた。

 今回は偶発的なものではない。万理華が貴恵に向かって「会いたいって気持ちはわがままじゃないよ」と説いた直後に起きた。万理華は貴恵に体を貸したのだ。

 第一、万理華はもう家に帰りたくないとは思っていない。貴恵が万理華に憑依したことにより、千嘉は目が覚めた。万理華がかけがいのない存在だと分かり、良い母親になろうとしている。

 一方、万理華も貴恵の家族に会いたい気持ちは分かる。いくら冷たくされていた千嘉であろうが、自分もその元に帰りたかった。万理華は自分にやさしくしてくれた貴恵に対し、やさしさを返そうと考え、体を貸したのだ。

作品のテーマ

 このドラマの底流にある最大のテーマが「家族愛」なのは観ている誰もが知る通り。身近な題材だからこそ多く人の胸を突いた。ほかのテーマも大半の人に関わるものばかり。

 最終回では、再び万理華に憑依した貴恵と圭介、麻衣が対面する。3人とも大喜びするに違いない。けれど貴恵は今度こそ成仏する。

 今回の憑依は万理華の善意で実現したものである上、そもそも分別ある貴恵は万理華の体に入り込んでしまうのが罪であることを知っている。

「私は本当の万理華ちゃんの人生を奪っているのよ」(貴恵、第8話)

 圭介も第9話で貴恵を送る心の準備が出来た。悲しみを乗り越える決意をした。貴恵が小学生になってまで帰ってきた理由が分かったからだ。

 その理由とは、生気を失った圭介を奮い立たせようとしたためだが、同じく脱け殻のようになってしまった麻衣のサポートを圭介に託したかったからでもある。それに気づいた圭介は麻衣に懺悔した。

「この10年間、僕は本当に最低の父親だった。麻衣を励ますより、自分が悲しみに浸ることを優先させた」(圭介、第9話)

 貴恵が逝った時、麻衣はまだ10歳。それなのに失意の圭介は麻衣に目を向けられず、子育てを放棄してしまった。

 圭介が無気力になったのは自分のせいだが、麻衣のケースは圭介にも責任がある。圭介は万理華を10年虐げてきた千嘉を責められないのだ。

 千嘉と圭介の「子育て問題」もこの作品の大きなテーマ。やはり身近でズシリと重い。

 圭介のほうの子育て問題は原作にない。原作の麻衣は29歳であり、貴恵が事故死した時には既に親の手を離れつつあった。圭介の子育て問題を加えたことにより、ドラマ版は厚みを増した。

 麻衣は10歳から、万理華は10歳まで、それぞれ不完全な日々を送った。けれど、きっと取り戻せる。圭介と千嘉によって。そうしなくてはならないことを貴恵が教えてくれた。

 誰にも関わる永遠のテーマ「喪失と再生」もしっかりと描かれている。圭介は10年間にわたってゾンビのようだったが、これを笑い飛ばせる人はいるだろうか。

 肉親や配偶者との死別の辛さは大半の人が知っている。半年から1年、悲しみを引きずる人は珍しくないし、圭介と麻衣のように長期間にわたって陰鬱な日々を送る人もいる。一生立ち直れない人すらいる。

 けれど圭介と麻衣は再び歩き出し始めた。麻衣は圭介の懺悔を受け入れた。圭介は父娘2人であらためて家族をつくり上げようとしている。すべては貴恵が憑依した万理華のおかげである。

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