〈カムカム〉虚実がはっきりしなからこそ、観る側の胸に響く…鮮明になる4つのテーマとは

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 安子、るい、ひなたの3人のヒロインを上白石萌音(24)、深津絵里(49)、川栄李奈(27)がそれぞれ演じるNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が、佳境に入った。謎や疑問が次々と解決する一方、テーマがより鮮明になりつつある。脚本を担当する藤本有紀さん(54)があらためて辣腕を見せつけている。

 この物語のテーマの1つは「永遠」。何が永遠かというと、第一に愛する人を思う気持ちである。

 安子の夫で英霊となった雉真稔(松村北斗)も愛娘・るいを思い続けていた。だから1994年の終戦記念日に帰って来た。安子が戦時中、稔の無事を祈り続けた朝丘神社で父娘は対面する。第97話だった。

 稔には二重の喜びだったに違いない。初めて会えた愛娘は出征前に自分が願った通りの世界を生きていた。

「どこの国とも自由に往き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる。るい、おまえはそんな世界を生きとるよ」(稔)

 稔がことさらに「どこの国とも自由に往き来できる……おまえはそんな世界を生きとるよ」と言ったのは、安子のいる米国への渡航も可能だと暗にほのめかしたのだろう。

 直後、るいは夫の大月錠一郞(オダギリジョー)に向かって、「私、アメリカに行きたい。お母さんを探しにアメリカに行きたい」と、胸のうちを吐露した。

 その前、伯父・算太(濱田岳))と叔母・雪衣(多岐川裕美、若年期は岡田結実)から懺悔を聞き、るいは安子の渡米が自分を捨てた訳ではないことを知った。けれど、海を渡る決心をさせたのは稔の言葉だ。安子に会いたいと思い続けてきた自分の気持ちに素直になれた。

 安子もるいを思い続けているはずだ。るいのために倒れるまで働き、「私の命なんです」(第38話)と言い切っていたのだから。安子の愛も永遠だろう。

「円と川」

 この物語には丸いものが数多く登場する。丸(円)が永遠を表すのは知られている通り。始まりも終わりもないからだ。

 冒頭で第何話かを示すテロップからしてラジオのダイヤルがモチーフ。ほか、ラジオのスピーカー、おはぎ、小豆、レコード、野球のボール、トランペット最前部のベル(あさがお)、回転焼き、大月(月)という名字、ひなた(太陽)という名前……。挙げたらキリがない。

 また、この物語は川を頻繁に登場させている。水の循環によって絶えず流れ続ける川も永遠の象徴である。

 安子が稔に自転車の乗り方を教えてもらったのは岡山の旭川の河川敷。るいが1962年、雉真家を離れる際に叔父の勇(村上虹郎、高齢期は目黒祐樹)とキャッチボールをしたのも同じ河川敷だ。

 稔が通っていた旧制大阪商科大の近くを流れ、安子と2人でほとりを歩いたのは大和川。ここで2人は夕日を見た。

 るいが働き、錠一郞と出会う大阪・ミナミの竹村クリーニング店の近くには道頓堀川が流れていた。ひなたがラジオ体操をしたり、錠一郞が少年野球を見守ったりしたのは京都の鴨川の河川敷だ。

 円と川。この物語はほぼ毎回、永遠というテーマの1つを知らせていた。

 2つ目のテーマは「継承」の尊さ。この物語の5つの題材「ラジオ英語講座」「あんこ」「野球」「ジャズ」「時代劇」はいずれも最盛期が過ぎたものの、継承され続けている。藤本さんは永遠に受け継がれることを願っているのだろう。

 ラジオの英語講座は安子、るい、ひなたへと継承された。ラジオ英語講座は5つの題材の中でも格別であり、事前に「ラジオ英語講座と共に歩んだ3人のヒロインが紡ぐ100年のファミリーストーリー」と説明されていた。その通りになりつつある。

 ラジオの英語講座の背景には愛があるのが特徴。安子は後に結婚する稔から勧められ14歳から聞き始め、懸命に取り組んだ。稔への深い思いからだった。

 るいは11歳のひなたが投げ出したラジオでの英語講座を、1人で17年聴いていた。目的は口にしなかったものの、おそらく渡米した安子との接点を心のどこかで求めていたからだろう。

 ひなたの英語講座も愛する人と結びつくはず。ここが終盤のポイントの1つになる。

 あんこをつくる技術も安子、るいと受け継がれた。ひなたも継承するはずだ。あんこづくりの背景にも愛があった。戦争未亡人となった安子は祖父・橘杵太郎(大和田伸也)が生んだ味を、るいとの生活を守るために再現した。

 るいもトランペットが吹けなくなった大月錠一郞(オダギリジョー)との暮らしを支えるため、あんこをこしらえた。そして回転焼きをつくった。ひなたのつくるあんこも愛と結びつくだろう。

 野球はるいの叔父・勇(目黒優樹)から、るいの息子・桃太郎(青木柚)へ受け継がれた。時代劇はモモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)が名前も含めて親子で継承した。

 柳沢定一(世良公則)が開いたジャズ喫茶「ディッパーマウス・ブルース」は1度閉じられたが、息子の健一(前野朋哉から世良公則)とその孫の慎一(前野朋哉)によって復活した。やはり継承された。

 ほかにも野田一子(市川実日子)と一恵(三浦透子)母娘の茶道、荒物屋から電器店に変わったものの、赤螺家の「あかにし」などが受け継がれた。これほど継承を描く物語も珍しい。

 3つ目のテーマは「継続」の大切さ。ラジオ英語講座、あんこを練る技術は継続しないと身に備わらない。野球、ジャズ演奏の楽器、時代劇の殺陣は継続しないと上達しない。

 岡山に行く前のひなたが、何も身に備わっていなかったのは布石だった。何をやっても続かなかったから仕方がなかった。

 この物語のキーパーソンの1人である伴虚無蔵(松重豊)は第91話で、ひなたにこう言っていた。

「おひな、黙って鍛練せよ。日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」(虚無蔵)

 継続せよとだけ説いた。何をするかは自分で考えろということだった。ひなたは英語を鍛練する。それが生きる日がきっと来る。

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