都市伝説だと思っていた「マスク会食」を目撃! 「尾身食い」する男性の動機に迫る(中川淳一郎)

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 都市伝説だと思っていた「マスク会食」をついに見ました。もちろん、店内に入ってから飲み物が来るまでマスクをし続け、その後は外し、便所に行く時と会計時に装着する集団というのは何度も見たことがあります。しかし、飲み物と食事が来てもマスクを着け続ける人々は初めて見ました。

 一つは立川のファミレス。女子大生風3人組がいたのですが、パスタを一人が取り分ける時も全員が押し黙ってマスク着用。取り分けが完了し、食べ始めたら顎マスクにし、口に入れるや否やまたマスクを装着。まさに、テレビの食レポをする人のごとき仕草をするのでした。テレビに影響されたんだろうか。

 そしてその近くの男子大学生は8人組だったのですが、テーブルをくっつけることなく、4人×2にしている。彼らもマスク会食をし、ドリンクバーや手洗いに行く時はピタッとマスクを着ける。

 さらにすごかったのが都心のピザ店です。40代前半の上司風の男と30代前半の部下風の女2人だったのですが、飲み物が来たら女2人はマスクを外すのですが、男はその後1時間半ほどの間、まさに政府分科会会長・尾身茂氏が提唱した「尾身食い」をするのでした。耳にマスクの紐をつけ、垂れたチーズを箸で集めてピザ本体の上に集め、目の前にいる女性2人に飛沫を飛ばさないためか、下を向き、ピザをパクリ! そして即座にマスクをする。

 この時、ジャーナリストの鳥集(とりだまり)徹氏と一緒にいたのですが、この男の見事なまでのマスク会食術に「あれは作法だ」とまさかのマスク会食会の裏千家認定をするに至ったのでした。

 果たしてこんなことをして「カンセンショウタイサク」とやらになるのでしょうか。何しろこの店は満席。マスクをして食事をしている客などこの男以外にいないんですよ。となれば考えられるのは、(1)本気で怖がっている、(2)「尾身食い」がカッコイイと思っている、(3)周囲への配慮ができるオレ、カッコイイし仕事ができる!と思っている、のどれかでしょう。

 しかし、いずれの理由もアホ過ぎですが、鳥集氏とは「いやぁ~、貴重なものを見ましたね!」としみじみ語り合ったのでした。

 そんな中、ツイッターで見たのが、内閣官房が制作した「マスク会食」の推進ポスターです。メインコピーは「最初は違和感 そのうち習慣 『マスク会食』」でサブのコピーは「飲食する時だけマスクを外し、会話の際にはマスクを着けて」とあります。そしてイラストはちゃぶ台に座る4人。手前にはマスクを着けて会話をする女2人がいて、奥にはビールのジョッキを飲む男と箸を口に運ぶ男。ご丁寧にもこの2人がマスク袋にマスクを入れている様子も描かれている。

 正直、ここまでして会食なんてしたくありませんよ。しかし、これを律義に守る人が多いから、立て続けに東京でマスク会食を3組見たのでしょう。すれ違う時に傘を斜めにするなど他人に配慮する「江戸しぐさ」は実際は存在しなかったことが定説ですが、世にも奇妙なマスク会食はまごうことなき「令和しぐさ」として存在するのです。これは後世に残しておかなくてはならない。「あの頃の日本人は馬鹿だらけ」と。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年3月17日号掲載

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