なぜ日本だけ30年も賃金が上がらない? ビッグマック、賃金ともに韓国以下に

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赤字覚悟の「出血受注」

「物価」を研究している東京大学・渡辺努教授の『物価とは何か』(講談社選書メチエ)によれば、米国、英国、カナダ、ドイツの消費者と、日本の消費者に対して「いつもの店である商品の値段が10%上がっていた場合にどうするか」と尋ねたところ、日本以外の国の消費者は値上がりをしていても、やむなしと受け止め、高くなった商品を買うという答えが多かった。原料の価格が上がったり人件費などが上がればしょうがない、と値上がりを受け入れるのだ。しかし、日本人の消費者の回答だけはそれらと対照的で、「その店で買うのをやめて他店でその商品を買う」「その店でその商品を買う量を減らす」が多く支持された。この結果を受けて、同書では、「値上げを断固拒絶するのは日本の消費者だけ」と結論付けている。

 では、なぜ日本人だけが「値上げ」に不寛容なのか。この答えは単純明快で、それらの国の人々よりも「貧しい」からだ。

 経済協力開発機構(OECD)のデータでも米国や英国が1990年から実質賃金を40%超の割合で上げているところ、日本はわずか4%しか上がっていない。また、2020年の主要国の平均賃金(年収)を見てみると、1ドル110円とした場合の日本の平均賃金は424万円。35カ国中22位で、1位の米国(763万円)と339万円も差がある。

 韓国もかつては日本より低賃金だったが、1990年から30年で1.9倍と順調に賃上げし、ついに日本を15年に抜いて、現在は日本より平均年収が38万円ほど高い。まさしく「後から来たのに追い越され」である。

中小企業が低賃金なことが問題

 では、この世界の常識に逆らう、「異次元の低賃金」はなぜ引き起こされてしまったのか。それは賃金を支払う側、つまりは企業がさまざまな言い訳を並べて賃上げしないせいである――そう聞くと、「大企業が内部留保を溜め込んでいるからだ」「政府が財政出動をして企業を支援していないからだ」という話になりがちだが、実はそれらはあまり関係ない。「中小企業白書2021」によれば、日本企業の中で大企業の割合はわずか0.3%(1.1万社)に過ぎない。99.7%(357万社)を占めて国内の従業者の約7割(3220万人)を雇っているのは中小企業である。

 つまり、大企業が内部留保を吐き出して賃金に還元したところで、それはたかだか3割の話ということだ。圧倒的大多数が働く中小企業の賃金を上げないと、日本全体の賃金は絶対に上がらない。裏を返せば、日本が30年ほど賃金が上がっていないのは、中小企業の賃金がこの30年上がっていないからなのだ。

 また、国が惜しみなくカネをバラまけば賃金が上がるという単純な話でもない。日本では中小企業に対する「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」をはじめとした手厚い産業支援がなされてきた。受け取れる額は条件によってさまざまだが、1千万円以上となるケースも少なくない。しかし、厳然たる事実として、賃金はほとんど上がっていない。

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