【カムカム】いよいよ謎が解かれ始める…城田優は単なるナレーターではなかった?

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“布石”

 ビリーという名前も布石の1つだし、語りの人物がバイリンガルという点もそう。もし語りの人物が3人のヒロインと無関係なら、バイリンガルである必然性がほとんどなかった。

 3月4日放送の第87話までの時点で英語と深く関わり合ったのは安子しかいないのだから。るいはジャズに親しんだ程度だし、ひなたはビリーとの出会いで始めたラジオの英語講座をすぐに放棄してしまった。

 あらためて藤本さんの才能とフェアな姿勢に舌を巻く。ビリーは第66話から第69回まで登場させ、重要人物であることを知らせていた。後から脚本を直して辻褄を合わせるようなドラマとは違う。

 ちなみに1925年生まれの安子は1944年にるいを出産した。ひなたは1965年生まれ。ひなたと年格好が同じビリーはやはり1965年前後の生まれで、安子が40歳前後の時の子供だろう。ちなみに安子が渡米したのは1951年である。

 放送は残り1カ月余であるものの、時間にすると300分以上。5時間以上だ。謎が解かれ、布石の理由も明かされるほか、新しいエピソードも複数描かれるはず。

 新しいエピソードのキーパーソンの1人は青木崇高(41)で決まりだろう。第86話で上映されたリメイク版の「妖怪七変化!隠れ里の決闘」に、2代目桃山剣之介(尾上菊之助、44)の仇役・左近として登場した武藤蘭丸である。

「チョイ役だったのに豪華なキャステイング」という見立てもあるものの、それは違うのではないか。第53話で放送された初作の「妖怪七変化!」でも左近役・伴虚無蔵(松重豊、59)に同じような声が上がったが、第74話から再登場し、キーパーソンの1人となった。

 松重は藤本さんの朝ドラの前作「ちりとてちん」(2007年度後期)でヒロイン(貫地谷しほり、36)の父を演じた。準主演級だった。青木は藤本さんの向田邦子賞受賞作の娯楽時代劇「ちかえもん」(2016年)で近松門左衛門役の松尾スズキ(59)とともにダブル主演した。

 青木の役柄は何かと近松を助ける心優しい男だった。一方、浮き世離れしており、謎だらけの人物だった。その謎が最終回で一気に解ける。絶対にダブル主演でなくてはならなかった理由も分かる。予想をはるかに超える展開に息を飲み、脚本の力を思い知らされた。同時に深い感動が押し寄せてきた。

「カムカムエヴリバディ」の終盤もきっと同じはず。最後の最後まで目が離せない筋書きになり、一方で胸に響くに違いない。

 気がついたのだが、藤本さんはこの朝ドラの制作が公表された2020年7月に短いコメントを出して以来、一度も取材を受けていない。新聞・雑誌の個別のインタビューを受けていないのはもちろん、恒例であるはずの放送記者クラブによる合同取材会も行われていない。NHK出版が出す関連本にも一切登場していない。前代未聞に近いことだ。

 昭和期の作家の中には「読者を現実の世界に引き戻してしまうから」などと言い、取材を受けない作家がいた。近松も自分の実像が観客に知られるのはマイナスと考えたらしく、今も私生活は謎だらけである。

 藤本さんも観る側をこの朝ドラの世界に浸らせようとしているのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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