プーチン大統領の暴挙で消える「北方領土返還」「漁にも出られない…」元島民たちの怒りと嘆き

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プーチン氏に見透かされていた安倍首相

 冷戦時代、ソ連のブレジネフ書記長に「存在しない」とされた北方領土問題。ソ連末期のゴルバチョフ政権、崩壊後のエリツィン政権など、日ソ、日ロの雪解けのたびに「領土が返ってくるかもしれない」という淡い期待を抱いてきた旧島民たち。しかし四島はブーメランのように近づいてきては去ってしまうの繰り返しだった。

 2016年12月の会談の直前は、マスコミも「今にも返還されるのでは」との憶測を流布した。その裏で政府は「ロシア側を刺激する」との名目で元島民に対し、返還運動の集会などでも「島を返せ」と書かれたゼッケンや鉢巻をさせないことまで強いていた。

 会談では複数の旧島民がプーチン氏に手紙を出し、それを大統領が読むという美談仕立ての演出があり、その模様が「NHKスペシャル」で放送された。彼らの手紙には、「いつでも墓参りしたい」「島で朝を迎えたい」などの文言はあっても、「島を返してほしい」とは一言も書かれていなかった。この不自然なパフォーマンスは、会談の成果の上がらなさを誤魔化すために、官邸サイドとNHKが旧島民女性を利用して仕組んだものだろう。安倍政権は旧島民にそこまでさせてプーチン大統領に媚びていた。何の進展もないまま月日が経ち、旧島民たちは「プーチンの正体」を見ることになった。

二島返還もかなわず

 領土問題や根室経済に詳しい元根釧漁船保険組合参事の足立(あしだて)義明さん(84)は、「岸田総理は、北方領土に関心もなく返還どころではないでしょう。200海里に入れなかったら、根室の漁業は崩壊します。根室市は今ふるさと納税で持っているようなものだが、カニやウニなどの返礼品もなくなってしまう。20年ほど前に鈴木宗男さんが打ち出した二島返還論を私も支持したが『四島返還が国是だ』と国賊扱いされ、右翼も押し掛けた。二島だけでも返してもらっていれば全然違ったはず」と振り返る。陸地面積としては国後島や択捉島には及ばないが、色丹島と歯舞諸島の周辺は「世界三大漁場」の1つとされ、カニやウニなど高価な海産物の宝庫だ。

 2018年11月、安倍首相はシンガポールでのプーチン大統領との会談で、1956年の「日ソ共同宣言」に依拠し、従来の四島返還から、色丹島と歯舞群島の二島の返還を目指す方針に転じた。プーチン大統領との「個人的信頼関係」を誇示していた安倍氏は、四島での日ロの共同経済活動からの返還を模索したが、日本によるインフラ整備など「ロシア側のおいしい所取り」に終わるだけで、返還されるとはとても思えなかった。

 ウクライナ侵攻で岸田首相は「ロシアとの関係をこれまで通りにしてゆくことはできない」と断じた。もはや二島返還も完全に潰れたといえよう。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮編集部

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