プーチン大統領の暴挙で消える「北方領土返還」「漁にも出られない…」元島民たちの怒りと嘆き

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墓参や交流事業も絶望的

 歯舞諸島の多楽島から引き揚げた千島歯舞居住者連盟の河田弘登志(ひろとし)副理事長(87)は、「先月、宮谷内(みやうち)さんが亡くなったんですよ。私よりずっと若いのに」と嘆いた。

 同連盟の根室支部長で国後島出身の宮谷内亮一さん(享年79)は、根室市職員を経て返還運動の先頭に立ってきた。四島との交流事業が新型コロナの感染拡大防止のために中止になる中、昨年10月に納沙布岬で慰霊祭を催し「元島民が一人でも生きているうちに返還の道筋を示してほしい」と国に訴えた。今年2月にもオンラインで語り部をする予定だったが、心不全により突然、他界した。

 2月22日、連盟は旧島民に対して今年の「自由訪問、北方墓参及び四島交流訪問」の案内を出したばかりだ。毎年、5月から夏の終わりまで、エトピリカ号という船で四島に渡り、墓参や自由訪問、現地のロシア人との交流などをする交流事業は、コロナ禍のさ中、船が密になるため2年連続で中止されていた。

 河田さんは「元島民に募集をかけて、私も申し込みましたがロシアのウクライナ侵攻の影響で難しくなったのでは。ことしダメになれば3年間、行かれないことになる」と嘆く。

 2016年12月、山口県で行われた安倍vsプーチン会談は従来の外務省主導ではなく、経産省を軸に官邸主導で進められ、会談で安倍首相は「返還」という言葉すら使わなかった。当時「経済交流優先で領土返還が棚上げになっている」と不信感を吐露していた河田さんは「あの時、担当した役人たちはみんな交代してしまったが、絶対に返還運動をやめるわけにはいかない。国は本当にやってくれるのだろうか」と話した。

「不安でいっぱい」

 居住者連盟の脇紀美夫理事長(81)は、羅臼町長も務めた。町からは故郷の国後島がはっきりと見える。脇さんは、「国際問題なので私の立場で何か言えるわけではないが、こういう時だからこそ、四島返還を強く訴えていきたい。どんな状況になってもこれは譲れない。地元では安全操業がどうなるのかなど不安でいっぱいです。連盟の役員会もコロナ禍でリモート会議ばかりでもどかしい」と話す。

「プーチンは完全に狂っている」とは漁業、得能(とくのう)宏さん(88)。色丹島からの引き揚げ前、2年間程、日ソ混住の時期を生きた。ソ連兵が教室にいた小学生時代の思い出などの体験はアニメ映画「ジョバンニの島」の題材になり、講演もしてきた。

「何十年の返還運動で返ってくるかなと思う時期もあったが、最近は全然ダメ。当面は領土返還よりも経済面が心配だ。悪いことばかり続く。プーチンはもう狂っとるとしか言いようがない。自己抑制はできないのではないか」と訝った。

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