ウクライナ侵略から見る「ハイブリッド戦争」の本質と自衛隊の弱点 元陸上自衛隊幹部からの提言

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 ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、「話し合いで平和がもたらされる」などと思うのはかなりお目出たいタイプで、日本はロシアや中国の脅威をより現実のリスクとして捉えるべきだろう。明らかに日本の領土でありながら、彼らが「自分たちのものだ」と主張している地域が存在している以上、いつあのような目に遭うかはわからないと考えるのが自然である。

 この侵攻に関連してよく目にするようになったのが、「ハイブリッド戦争」というキーワードだ。戦車や戦闘機が先陣を切るシンプルな武力攻撃は過去のものになっている。

 日本を守る自衛隊は、こうした勢力の侵略、ハイブリッド攻撃に対応できるのか。陸上自衛隊で作戦・教育訓練に携わった元陸将補の二見龍氏は著書『自衛隊は市街戦を戦えるか』の中で、前回のウクライナ侵略から見た「ハイブリッド戦争」の本質や、自衛隊の抱える課題について論じ、日本の備えを考えるうえで必要な視点を提示している。

 二見氏によれば、自衛隊の装備も訓練もまだまだ改善と強化が必要だという。同書を引用しながら見てみよう(以下、第1章「今や戦闘は変わった」より)

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ウクライナ侵略の何が新しかったのか

「戦闘の形態が昔とは違ってきている」と言われれば、多くの人は「それはそうだろう」と思うに違いありません。しかし、何がどのように違ってきているのかを、説明できる人は少ないのではないでしょうか。

 違いがはっきりと分かるのが、2014年ウクライナ侵略時のロシア軍の戦い方です。この戦争で行われたことは多くの軍事関係者を驚愕させました。戦い方が大きく変化してきたことを内外に知らしめたのです。

 その輪郭は2016年のアメリカ議会で明らかになりました。当時、ロシアは電子戦によってウクライナのレーダーを使用不能にするとともに、サイバー攻撃(ハッキング)で発電所、メディアの機器を乗っ取りました。GPSが使えなくなった偵察用のドローンは自己位置を評定できなくなり、地上へ降下したまま動かせない状態にされてしまいました。

 さらに敵の砲弾の電子信管を作動できなくしました。また、携帯電話を一時的に使用不能にして、その機能が回復した時には、数多くのフェイク情報をメール等で大量に流したのです。このためウクライナの住民は混乱へと陥りました。

 錯綜した情報を与えられた市民によるデモ隊がインフラ設備に押し寄せ、占拠することによって、電源が落ちてしまう事態も発生。停電状態の中、頼りとなるラジオ局もデモ隊に占拠された状態となり、ラジオからはフェイク情報が流し続けられました。

 このように正規軍、非正規軍の活動の他に、サイバー戦や情報戦を組み合わせる戦い方は「ハイブリッド戦争」と呼ばれています。

 後に、インフラ設備を占拠したデモ隊は、実はロシア軍であることが判明しています。こうした戦い方で、ロシアはクリミア占領という戦争目的を達成したのです。

 冷戦後、ロシアの力は弱まったというイメージがありましたが、それとは裏腹に、新たな戦い方を開発していたことがこのときに明らかになったのです。当然、中国も同じような能力を持っている可能性は高いと考えられます。

ハイブリッド戦争の本質

「ハイブリッド戦争」を簡潔に表現すれば、サイバー攻撃により国家機能をマヒさせ、その間に特殊部隊などによって、政治経済の中枢部、都市部でのインフラ設備などの重要施設を迅速に占領してしまう戦争形態、ということになります。

 長い間、戦争といえば、情報と火力の優越によって敵を撃破するというものでした。そこから発展し、敵の情報と火力を機能させず、相手国民を混乱させ、正常な判断ができない状態にして戦争目的を果たす新たな戦争形態が出現したのです。

 この新たな戦争形態は、大量の人的犠牲を伴いません。例えば、化学兵器工場の破壊、テロ組織主要幹部の殺害、一部の地域のみを占領するといった限定的な戦争目的ならば、多くの損害を出さずとも迅速に達成できます。そのため、今までよりも戦争を起こすハードルが低くなる可能性があります。「ハイブリッド戦争」に対応するためには、宇宙からの攻撃やサイバー攻撃への対応機能を整備するとともに、相手国に狙われやすいインフラ設備などの重要施設を防護することも、今まで以上に重要になってきます。

日本を取り巻く環境の変化

 戦闘形態の変化が進む中、日本も無縁であるはずがありません。

 日本を取り巻く安全保障環境は大きく変わってきています。冷戦までは、大国間の戦争に日本が直接関わることはなく、巻き込まれないようにする議論が盛んに行われてきました。しかし、冷戦終了後、今度は日本が当事者となるかもしれない状況へと変化してきたのです。

 たとえば対中国。記憶に新しいところでは、2013年尖閣列島において中国との間で緊張が走ったことがありました。中国の艦艇が、自衛隊のヘリを射撃用レーダーでロックオンする事案が発生したのです。当時、尖閣列島の住所(石垣市字登野城)は、石垣島(沖縄県)の中心地と同じ番地でした。尖閣の問題は、沖縄にも直接関係する問題なのですが、このことはあまり知られていません。

 この地域にはもともと部隊が直接配置されていませんでした。そのため事態を受けて防衛省は2014~2018年の中期防衛整備計画で南西諸島(与那国島・石垣島・宮古島等)への体制強化を盛り込み、地上部隊(陸上自衛隊)を南西諸島に直接配置することになったのです。

 あるいは北朝鮮。彼らは広島型の約10倍の威力があるとされる核爆弾の実験を行い、弾道ミサイルを日本に向けていることを明らかにしています。そちらへの目配りも欠かせません。

 安全保障環境は劇的に変化しています。日本が他国と直接ぶつかる可能性も否定できなくなっています。こうした環境下では、日本の防衛力をより実際的なものにするとともに、さらなるアメリカとの連携が重要になってきているのです。

 2019年5月、アメリカのトランプ大統領は現職の米大統領としては初めて海上自衛隊の護衛艦「かが」に乗船しました。「日米の仲は、米大統領が日本の艦艇に乗るほどである」とアピールできたのは世界的にインパクトが大きかったと関係者の間では評価されています。また、日本は、オーストラリア、イギリス、ニュージーランドとも関係を強化し、抑止力を高めています。

陸上自衛隊員の装備の変化

 こうしたなか、陸上自衛隊員の装備も以前とは変わりました。

 暗視眼鏡を装着したヘルメットをかぶり、色々な装具を装着できる防弾チョッキを着ている自衛隊員の姿をメディアで見ることも少なくありません。カムフラージュのためのギリースーツ(自然の中に同化するためのジャケット)をまとい狙撃銃を持ったスナイパーや、水陸両用の大型の装甲車を有する部隊が新設されれば紹介されるようになりました。装備を見ると陸上自衛隊の進化、近代化が着実に進んでいるように感じます。

 では、装備の近代化と共に、戦闘訓練の形態も変わったのでしょうか。

 陸上自衛隊の戦闘場面は、毎年実施される「総火演(富士総合火力演習)」や各駐屯地の記念日行事で行われる「模擬戦(模擬戦闘訓練)」で見ることができます。しかし、国民が目にする内容は、あくまで戦闘の一例であり、見せるために作り上げたものなので、陸上自衛隊の実像を映し出したものでは決してありません。

 本当の姿を知るには、普通の部隊や戦闘を支援する後方部隊がどのような訓練を行っているのかを確認しなければなりません。「基礎を学んでいる新隊員の訓練の状況」や「応用を行う部隊の訓練(練成訓練)の状況」が実際にどのように行われているかがポイントになります。

 あわせて、隊員たちの意識についても考える必要があります。「専守防衛」を前提に、この南北に長い日本の地形で、人々が生活をしているなか、国土戦を戦い抜かなければなりません。そういう認識をどれだけリアルに感じているのか。さらに言えば、陸上自衛隊の行う訓練自体は非日常的で、現実からかけ離れた世界を想定しています。それをどこまで実戦的、リアルに捉えているか。

 残念ながら、陸上自衛隊が普段どのような訓練をしているか、外部の人はほとんど目にすることができないのが現実です。しかし、そこを知らずしては、陸上自衛隊の今後、ひいては日本の防衛を語ることはできません。本書では、そんな陸上自衛隊の訓練の実像を少しでもお伝えしていこうと考えています。

戦争形態の変化

 もう少し詳しく戦争の形態の変遷を見てみることにしましょう。

 そのことによって、今の自衛隊が置かれた環境が理解できるかと思います。また、自衛隊にはどのような訓練が求められているのか、なぜ市街地戦闘訓練が必要なのかも理解していただけるでしょう。

 第2次大戦の時に行われていたのは「消耗戦型の戦争」でした。敵の戦車、砲兵、人員を効果的に破壊するために、大兵力の軍隊同士が決戦を行って勝敗の決着をつける形態のことです。

 しかし、装備の近代化とともに、戦争の形態は変わっていきます。両軍が原野に塹壕(ざんごう)を掘り、長期間にわたって塹壕戦、つまりその塹壕にこもって対峙するような形はなくなりました。多くの人的な犠牲を伴いながら、どちらかが戦争を継続できなくなるまで戦う「消耗戦型の戦争」は、第2次世界大戦とそれに続く朝鮮戦争以降、姿を消していきました。

 代わって主流となったのは、短期間に作戦の目的を達成することを追求する戦い方です。兵員を殺戮したり、武器を製造する工場など産業基盤を徹底的に破壊したりするのではなく、敵の組織力を発揮させず、まず戦闘機能をマヒさせて機能不全にするやり方です。

 この場合、敵指揮官への直接攻撃や敵通信統制システムの破壊、さらには国家の重要拠点の早期確保による国家機能の停止や政権の崩壊を狙います。短期間に目的を達成するため、終戦の形を考えて迅速に決着をつけるような戦争の形態へと変化したのです。

 戦争形態の変化は、軍隊の変化につながります。こうした短期間での目的達成のためには、性能の高い兵士が必要です。このため、常備兵力で対応することが常態になりました。国民を召集し、基本的な新兵訓練を行い、限定的な戦闘レベルの兵士を急増させ、戦争に投入する――それまでの時間軸の長い「消耗戦型の軍隊」は消えたわけです。また、短期間に戦争目的を達成するために、戦闘レベルの高い部隊や特殊な能力を有する部隊の運用が多くなってきたのも新たな特徴といえます。

 冷戦後、戦う相手があいまいになってきたのも、特徴といえます。従来の敵が「国」であったものが、アルカイダやイスラム国といった非合法の組織となる事態が発生してきたからです。こうした非合法組織は、市街地においてテロやゲリラ戦を仕掛けてきたりしています。

 戦闘で使用する装備も格段に進歩しています。

 コンピューターシステムによって各種目標情報が統合され、敵撃破に最適な兵器を選択することが可能になりました。各種誘導ミサイル、火力システム、航空機のデータもシステム内で共有されるようになり、個別の兵器がひとつにシステム化されて使われるようになりました。また、兵士も小銃を撃つだけではなく、狙撃銃や対戦車誘導弾や携帯式対空ミサイル等の兵器を運用するようになっています。

現実味を失った北海道地上戦

 このような変化は当然、自衛隊にも影響を与えます。

 冷戦時代、対ソ連で考えられていたのは、ソ連軍が大船団を組んで北海道に着上陸し、大量の砲兵に支援された戦車と装甲車を主体として侵攻してくる、といったシナリオです。陸上自衛隊はそれを地形が狭まっている隘路(あいろ)地域において阻止しようと考えていました。戦闘を行う場所は当然、原野。訓練もその想定のもとで行ってきました。

 市街地は、戦車や砲兵部隊の展開が十分に行えないため、部隊の機動を制限する障害であり、戦闘の場所として使用しないものと考えるのが通常でした。

 冷戦終了後、日本の情報収集能力が向上し、事前にロシア(旧ソ連)の行動を察知することができるようになりました。ロシアもまた航空機の性能が向上し、誘導ミサイルが発達したことなどにより、わざわざ大船団を並べてまで侵攻する利点はなくなりました。さらに、米国、ロシアを始め各国は、大きな人的な損害が発生することを嫌い、また長期間の戦費の支出による国力の低下にも耐えられない経済環境になっていました。

 こうした環境の変化の中、前述のように戦争の形が「国家対国家の大規模な総力戦」から「限定的、短期終結」型へと変化していきます。同時に従来は使用が想定されていなかった市街地が、戦場の新たなフィールドとして浮かび上がってきました。各国の国内紛争、テロ組織との戦い、イラク戦争などでは、市街地が重要な攻防の場所となっていったのです。

高まる市街戦のリスク

 新たな任務としてクローズアップされた平和貢献活動も、陸上自衛隊の訓練に影響を及ぼしました。海外へ陸上自衛隊を派遣する場合、市街地での活動が主体となります。

 ここでの安全を確保するための普通科(歩兵、第一線で戦闘を行う部隊)などの戦闘職種や、現地で道路の改修などの作業を行う施設部隊(工兵)だけではなく、戦闘を支援する後方部隊を含め、どの部隊もいつ事案が発生して巻き込まれるかわからない状態です。危険を回避するためには、全ての部隊が市街地での戦闘能力を求められるようになったといえるでしょう。

 実際に活動する場所や場面では何が起こるかわかりません。いざという時に必要な戦闘技術を身に付け、あわせて戦闘の能力も向上させるため、市街地戦闘訓練は海外に派遣される部隊にとっては重要な訓練内容になりました。

「市街地」での戦闘は、ただ射撃ができればいいというものではありません。まず銃を敵に奪われないようにすることから始まり、銃口を味方や住民に向けないなど基本的なことを徹底して身に付けます。弾を撃ち切った後、弾倉交換時に敵に攻撃されて損害が発生することが多いため、弾を撃ち切らない状態でリロード(弾倉交換、弾の補給)できる技術も身に付けなければいけません。仲間がリロードしている間は、弾が撃てない状態ですから、その時のカバー(支援)の仕方等、チームワークを高めることも重要になります。

 銃を撃ち合うような激しい戦闘になればなるほど、チームのメンバーを傷つけないために銃を安全に取り扱い、戦闘を行うための「ガンハンドリング(銃口管理、銃の取り扱い)」が必要となってきます。

 市街地における近間の戦闘と聞けば、原野での戦闘よりも単純で難しいことはないとイメージするかもしれませんが、やるべきことはたくさんあり、実は実戦において必要とされる戦闘技術が凝縮されているのです。(略)

自衛隊の遅れ

 ここまでをまとめてみます。戦争形態の変化とともに、市街地戦闘訓練の必要が生じてきたこと、そして、市街地戦闘訓練はスキルにおいてもこれまで要求されたこととは異なること、指揮系統も含めて戦い方が違うので現場でのリーダーシップやチームワークを鍛える必要があることがおわかりいただけるかと思います。

 では、実際にこうした世界情勢や技術の変化に自衛隊は対応できているのでしょうか。

 残念ながら、そうとは言えないのが現状です。

 前述したように、冷戦時代までは主敵はソ連として訓練を進めていました。対外的には、ある特定の敵というものが存在することはない、としていました。つまりソ連とは明言せずに、「演習対抗部隊として“陸上自衛隊が仮想に設定した敵”を相手に訓練を行っている」と説明していたのです。

 しかし、ソ連が崩壊すると同時に冷戦は終結。どこの国を仮想敵として訓練すればよいか、その対象を失ってしまいました。しかも、「防衛力はどの程度必要なのか見直しが必要である」との主張が国内では吹き荒れました。

 防衛力削減という圧力がかかる中、防衛省は「基盤的防衛力構想」という考え方で防衛力の必要性を説明して対応しました。

「基盤的防衛力構想」とは、具体的な脅威を特定することなく、「限定的かつ小規模な侵略」の事態に対処しうる防衛力の整備を目標とするというものです。これに対して、脅威となる敵がどの程度の能力を保有しているのかを特定して、それに対応できる防衛力を整備することを「脅威対応型」といいます。

 もともと政府は「日本の戦略的に重要な地域を守るのには、これだけの戦力があれば防衛ができる」と説明して防衛力の整備を進めてきました。つまり、冷戦時も基本的には「基盤的防衛力構想」で防衛力を整備していたのですが、ソ連という敵が消えてしまったインパクトは強烈でした。

 このとき、陸上自衛隊は、何をどのくらい訓練すればいいのかという問題に直面することになったのです。

 侵攻してくる相手国がわからないからといって、いざという時に国土を防衛する能力を失っていては話になりません。そのための訓練は、基本的な攻撃と防御の訓練を交互に行い、バランスよく実施しなければなりません。

 しかし、具体的に戦う敵が明確でないため、実戦的な訓練というよりも、どちらかというと、戦いの原則や指揮手順を記載した「教範」通りに確実に行うことを求める訓練内容が主流とならざるを得ませんでした。リアルよりマニュアルが優先されたわけです。実戦的な訓練をするという観点が薄れていくのは、自然の流れだったのかもしれません。

 その後、世界情勢の変化とともに、国連のPKOへ日本も参加する必要がでてきました。PKO活動に必要で、かつ現実的な市街地戦闘の訓練を中心に行うのか、それとも基本的な攻撃・防御の訓練を行うのか、その検討を続けていたのが、陸上自衛隊のイラク派遣(2003年)頃までの状況でした。

訓練内容向上の議論を

 繰り返しになりますが、現在、日本を取り巻く安全保障環境は劇的に変わりつつあります。中国の航空機の近代化への対応に加えて、中国海軍・空軍による第1列島線(九州―沖縄―台湾―フィリピンを結ぶ線)から第2列島線(小笠原諸島からグアム・サイパンを含むマリアナ諸島群などを結ぶ線)への影響力の拡大や、南沙諸島の軍事拠点の既成事実化に対応することが我が国の急務になっています。

 そのために、航空自衛隊の部隊の新編、海上自衛隊の艦艇の近代化や水陸機動団の新編による南西諸島の防衛能力強化が進められています。また、弾道ミサイルに対する防衛能力を高めていることもよくニュースで報じられています。目の前の脅威に対処する装備や部隊配置が着々と進んでいます。

 その背景には、国民の防衛意識が変化し、こうした配置を後押ししてくれていることがあげられるでしょう。昭和の時代や冷戦終結後では予想できなかったスピードで、現実に対応した動きが進んでいます。国際貢献活動の幅も広がり、アジアやアフリカ諸国の軍から警備してもらいながら実際の活動を行っている状況も今後変化していく可能性があります。災害派遣も人海戦術的に投入される時代から「活躍して結果を出して当たり前」の時代になりました。

 こうして陸上自衛隊を取り巻く環境が変わりつつあるなか、求められているのは隊員の訓練(ソフト)と個人装備(ハード)の改善と強化です。それらを同時に進めていくことです。そうした時期にきたといえます。

 国際貢献の場においても市街地で活動することが常態化していますし、市街地で戦闘が行われる可能性もゼロではありません。こうした現状を鑑みれば、当然訓練の内容も変化しなければならなくなります。

 市街地戦闘に必要なスキルを身に付けることのできる訓練を行っていなければ、苦戦する可能性が高くなります。苦戦するということは、自衛隊員に必要以上の損害を出してしまうことにほかなりません。

 14~15万人の陸上自衛隊の通常訓練の実態はあまりにも知られていないため、このことが国民の間で議論になることすらありません。しかし、それでは有事の際に十分な対応ができない、すなわち国民の命を守れません。

 自衛隊の訓練というのは、国民の安全、生命に直結する問題なのです。

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 二見氏はこうした問題意識をもとに、在任中、市街地戦を想定した実践的訓練の導入など改革を進めてきた。しかしながら、ここで述べられているように我が国はまだまだ「新しい戦争」に対応できているとはいえないのが現状だ。

 世界中が注視している中、堂々と行われたウクライナ侵攻。これを他人事と受け止めてはいけないのだが……。

デイリー新潮編集部

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