【カムカム】条映の撮影現場に忽然と現れた算太…7話で打たれていた布石とは

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3人の「18歳」

 昨年12月26日付の本稿から何度か「この物語は藤本さんの近松門左衛門へのオマージュでもあるのではないか」と書いてきたが、その思いをより深めている。

 主人公が信じていた人にカネで裏切られ、袋小路に追い込まれるのは、近松が代表作「曽根崎心中」などで書いた悲劇の王道だ。今回の物語の場合、当てはまるのは言うまでもなく安子と算太だ。

 また安子とるいのような親子の生き別れは朝ドラでは極めて珍しいものの、近松のフィールドだった歌舞伎や浄瑠璃では定番の1つ。近松も「丹波与作待夜の小室節」などを残している。

 放送開始当初は「3人のヒロインで100年の物語なんて出来るのだろうか」といった懐疑的な見方が一部にあったが、もうそんな声はない。

 なぜ、100年を描くことが可能だったのかというと、特定の時代や時期が「省略された」というより、藤本さんが「描くべき時代や時期を選んだ」からだろう。これも歌舞伎や浄瑠璃の世界ではよくある。

 藤本さんは18歳に拘っている。3人の人生のうち、描かれる時代と時期はそれぞれ違うが、18歳の場面はいずれにもある。

 安子は稔と結婚。るいは岡山を出て大阪の竹村クリーニング店に就職。後に結ばれる錠一郞と出会う。ひなたは条映の撮影所でのアルバイトを経験。今後の関係が気になる大部屋俳優・五十嵐文四郎(本郷奏多)と出会う。

 なぜ18歳に拘るのか。就職や進学など人生の転機だからではないか。恋する時期ということもあるだろう。もしかすると、日本では今年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられることも意識しているのかも知れない。

 もちろん3人のヒロインの活躍も大ヒットの理由にほかならない。まず、実績十分で舞台女優としても名高い深津は、非の打ち所のない演技を見せている。

 川栄の活躍もめざましい。特にコメディアンヌとしての天賦の才を見せつけている。計算だけでは出せそうにない明るさと面白さを表している。

 上白石の演技も出色だった。演技に限らず、目の前にいる人や記憶に新しい人が評価されがちなのは世の常だが、昨年12月22日放送の第38話まで出演した上白石の存在がなかったら、この朝ドラの成功はなかった。リードオフマン役をきっちり果たした。

 まだ戦火が身近にまでは迫っていなかった1939年という設定の第3話、14歳の安子は「はよ、パーマネントがかけられる日が来ますように」と神社で真剣に祈った。

 戦火は遠かったものの、日中戦争は始まっていたのだから、のんびりしていた。上白石はこういった安穏とした女性役もうまい。

 上白石が穏やかなころの安子の日々を巧みに演じたから、その運命が暗転すると、落差が際立った。パーマネントをかけたいと願った6年後の1945年、空襲で祖母と母は他界し、父は心身を病む。夫・稔が戦死したとの報せも届く。

 戦地の場面がなかったにも関わらず、戦争の奈落が鮮明になった。上白石の熱演が大きかった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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