“脳のゴミ”を日光で洗い流す日本発の「光認知症療法」 実現すれば安価で50代から予防も可能

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三つの薬が臨床試験を実施

 ところがアデュカヌマブの評価は必ずしも高くない。最終段階となる治験(フェーズ3)でバラバラの結果が出ていたからだ。

 FDAは、臨床試験の追加実施を条件にして迅速承認したものの、EMA(欧州医薬品庁)は「非承認」の勧告を出し、日本の厚労省は、「現時点で得られたデータから、本剤の有効性を明確に判断することは困難」(薬事・食品衛生審議会)として、再度審議することになっている。可能性に賭けた米国、クールに却下した欧州、結論を持ち越した日本。お国柄の出た結果ともいえるが、アデュカヌマブの出現は、大手製薬メーカーの開発競争に火を付けている。

「米イーライリリーやスイスのロシュなど大手製薬会社が、ほぼ同様の治療薬の開発を進め、今、アデュカヌマブに続いて三つの薬がフェーズ3の臨床試験を実施しています。成功が見込めなければ、数百億円の費用がかかるフェーズ3には入りませんし、アデュカヌマブの臨床試験の結果を見て、他社が開発を中止することもないでしょう」

 そう話す富田教授らが進めている研究も、同様にアミロイドベータの分解を目指している。だが、最終的な「着地点」は大手製薬メーカーと全く違う。富田教授らの研究は、従来の手法とどこがどう異なっているのだろうか。

脳に薬を届けるには

 まず、大手製薬メーカーがこぞって開発しているのは「抗体薬」、一方富田教授らが手掛けているのは、「低分子化合物」という違いがある。

 一般に薬は、化学的に合成する有機化合物が主流だったが、近年は遺伝子組み換えなどバイオ技術が発展し、より複雑な薬を作れるようになった。その代表である抗体薬は、動物の体が持つ抗体(免疫)を利用して、バイオ技術で作り出すものだ。現在、がんなど難治性の病気に対する治療薬の多くが、抗体薬である。

 しかし脳の治療に限れば、抗体薬は大きな問題を抱えている。

「マウスに墨汁を注射すると全身が黒ずみますが、頭部だけ色は変わりません。血液脳関門によって脳は特別に守られ、異物が脳に入らないようになっているからです。抗体薬も分子量が大きく、脳に入るのは投入した量の0.1%以下で、創薬の大きな障害となってきました。これに対して有機化合物の分子量を小さくした低分子化合物は脳内に入ることができるのです」(富田教授)

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