川島明の覚悟を感じる「ラヴィット!」独自路線 なめられる才能で芸人の大喜利番組に

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松山のメジャー制覇に、川島は…

 そんな川島とスタッフの覚悟が伝わってきたのが、開始当初の2021年4月12日の放送回である。この日、TBSでは深夜から早朝にかけて「マスターズゴルフ2021」の生中継が放送されていて、松山英樹が日本男子初の海外メジャー制覇という快挙を達成していた。

 この中継のために「ラヴィット!」は通常より20分遅れてスタートすることになった。普通の情報番組であれば、ここは当初の予定を大幅に変更して、松山の偉業を称える特別企画を行うところだ。そのニュースにはゴルフファンだけでなく多くの人が興味を持つだろうし、もともとTBSで生中継を見ていた視聴者がそのまま流れ込んでくることも期待できるからだ。

 ところが、いざ「ラヴィット!」が始まると、川島が「優勝おめでとうございます」と一言言っただけで、そのまま通常通りの企画に移っていった。番組のコンセプトを守るために、ほぼ確実に視聴率が見込める企画を見送ったところに、川島とスタッフの強い意志を感じた。

 この頃には特にバッシングの声が強く、視聴率でも苦戦を強いられていた。だが、徐々に「ラヴィット!」の独自路線が認知されるようになり、状況が変わってきた。最近では、ネット上でもたびたび話題になり、視聴率も上向いてきた。

 この番組では、出演する芸人たちがのびのびと楽しげに振る舞い、気軽にボケを飛ばす。たとえそれがスベっても、MCの川島がすかさずフォローの言葉を入れて笑いに変えてくれる。いつしか「ラヴィット!」は芸人たちがボケ倒す「大喜利番組」だと言われるようになった。

 芸人たちが自由にはしゃぐことができるのは、川島に「なめられる才能」があるからだ。これまでの芸人MCというのは、明石家さんま、ダウンタウンをはじめとして、共演する芸人にピリッとした緊張感を与えるようなタイプが多かった。

 だが、川島は、そういった大御所芸人に比べると年齢が低く、温和そうに見えるため、いい意味で共演する若手芸人も余分なプレッシャーを感じず、生き生きとした姿を見せることができる。

 川島は芸人だけでなく、スタッフからもなめられていると感じることがあるという。かつて「アメトーーク!」(テレビ朝日)で「(仮)バラシ芸人」という企画が行われ、川島が出演していた。「バラシ」というのは業界用語で、決まっていた仕事がキャンセルになることを意味する。「(仮)バラシ」というのは、もともと確定かどうか分からない「仮」の形で入っていた仕事がキャンセルになってしまうことだ。

 川島はよく「(仮)バラシ」される自分のような芸人のことを「都合よく遊ばれる愛人」にたとえていた。仮が仮ではなくなって確定することもたまにあるからこそ、仮に望みをつなぎ、裏切られて涙することになるのだという。

 少し前までは「(仮)バラシ芸人」として軽く扱われていた川島も、今では新たな「朝の顔」となり、順調に活躍を続けている。

 川島は、揺るぎない覚悟で異色の朝の帯番組「ラヴィット!」を生み出し、テレビ業界に新しい風を吹き込んだ。コロナ関連の暗いニュースばかりが目立つ中で、明るく楽しいバラエティ路線を貫く「ラヴィット!」は、視聴者にとって希望の光となっている。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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