コロナ禍で考える鉄道会社と“副業” 「東急ハンズ」「西武建設」にみる時代の流れ

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切り離されるグループ企業も

 こうした本体の鉄道事業を下支えする親孝行なグループ企業がある一方、本体の業績不振を受けて切り離されてしまうグループ企業もある。

 売上高は大した額ではなくても、その存在感から東急グループのブランド化に貢献してきた東急ハンズは、このほどホームセンター事業を展開するカインズへと事業譲渡されることが決まった。東急ハンズは“手の復権”をコンセプトにして、こだわりの品揃えで若者を中心に支持された。それが東急の牙城である渋谷文化を創ってきた。

 西武鉄道の持ち株親会社でもある西武ホールディングスは、沿線の住宅建設事業を手がけてきた西武建設の株式を売却すると発表。これにより、西武建設は西武グループから離脱する。

 鉄道と建設はシナジー効果が高い。くわえて、もともと西武は箱根土地という不動産事業から出発している。それらを考慮すると、同社が西武HDから離脱する影響は計り知れない。

 西武HDは、虎の子ともいえるプリンスホテルを含む約30の保有施設を売却することも報道された。西武HD広報部の担当者は「報道されたような、社内でプリンスホテルを売却する話は決まっておりません。そのため、お話しできることはないんです」と困惑気味に報道内容を否定する。

 報道では、プリンスホテルを売却後も経営は続けるとしている。これだけ聞くと、意味がわからない人もいるかもしれない。

 西武HDは、東京・江東区の東京ベイ潮見プリンスホテルと京都府京都市のザ・ホテル青龍京都清水の2つを所有はせずに運営だけを担っている。これは、所有と運営を分離させることで効率を高める経営手法だ。プリンスホテル売却報道は、これらを念頭に置いたものだろう。

 近畿日本鉄道の持株会社である近鉄グループHDは、2020年にホテル事業を再編するため、アメリカの投資ファンドへ8つのホテルを売却。名古屋鉄道も石川県金沢市で展開していた子会社の百貨店を売却している。小田急電鉄は、子会社でベーカリー事業を展開するHOKUOの事業譲渡を発表した。

 このように、鉄道各社がコロナで経営を厳しくしていることは揺るぎない。鉄道事業者たちは鉄道本体を死守するために、急ピッチで不採算事業部門や子会社・系列会社の譲渡・縮減・廃止を進める。

 ビジネスに浮き沈みはつきものだから、これらのニュースだけで鉄道事業がオワコンになるとの判断は下せない。しかし、2020年から続くコロナは長期化し、業績が好転する見通しは立てづらい。

 このままコロナが収束しなければ、鉄道各社はグループ企業の再編・事業譲渡を加速させるだろう。なかには、それだけで済まなくなる鉄道事業者が出てくる可能性もある。すでに本業の鉄道本体でも大幅な減便が発表された。今後は、経営的に非効率な路線の廃線議論が活発化する可能性もある。

 今年は鉄道開業150周年という、本来なら記念すべき年にあたる。しかし、とても150周年を祝えるようなムードにはなっていない。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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