「神田沙也加さん急逝」をメディアはどう伝えたか 2年前から変化した「自殺報道」

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自殺念慮を持っている人たちに与える報道の影響

 清水氏が別途代表を務めている「NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク」では自殺念慮を抱えた人を対象にした相談業務も行っているが、著名人の自殺報道が出た直後は相談件数が必ず急増するという。

「自殺念慮を抱えている人は、自殺に至った状況や背景について詳細に書かれた報道に触れた時に抱く気持ちについて、“持っていかれる”とよく表現します。自分も死ねば楽になるのでは、こうやれば死ねるのかと、自分が自殺で亡くなることついて具体的にイメージしてしまい、そのイメージが頭から離れなくなるのだと」

  一方で、自殺報道自体を取りやめるよう訴えかけているわけではないとも語る。

「私はもともとNHKの報道ディレクターでしたので、報道する側の気持ちもわかります。社会的な意義を考えたとき、自殺報道のリスクを考慮した上でも、自殺のことを報道すべきケースもあると思います。例えば、森友問題の公文書改ざん事件が原因で自殺に追い込まれた近畿財務局職員の方のような場合は、むしろその背景を掘り下げて報道しなければならないと思います。一方、芸能人の方が個人的な人間関係などが原因で亡くなった場合はどうあるべきか。自殺を誘発するリスクがあるからここまでにしようとか、詳細は控えようとか、報道の自由があるわけなので、最後は各社が判断するのだと思います。ただし、その判断は、自殺報道が『凶器』になりうる可能性があることを前提としたものでなければなりません」

一人でも思いとどまる人が増えることが大事

 神田さんの報道では、ほとんどの記事に相談窓口の案内がついていたが、「取ってつけただけのような違和感を覚えた」と指摘する声も多かった。

「確かに、反射的に案内をつけ加えているだけで、思考停止しているのではないかと思える報道もありました。自殺報道ガイドラインの意図を踏まえた報道をもっとすべきと思います。ただ、当然ですが案内はつけないよりもつけた方がいい。その案内を見て相談窓口に連絡し、自殺を思いとどまる人が一人でも増えることは大事なことです。多くの自殺は『追い込まれた末の死』であり、『積極的に選択された死』ではありません。真面目に懸命に生きようとする中で、死に追いやられてしまう人もいます」

 自殺報道が、身近な人を自殺で亡くした人に与える影響も計り知れないとも訴える。

「日本では自殺で亡くなる人が一日平均50~60人も増え続けているわけであり、そうした『異常な日常』こそをメディアはもっと報道すべきだと思います。社会全体で自殺問題について考え、社会全体で自殺対策に取り組む意識を高められるのも、また自殺報道だからです」

デイリー新潮編集部

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