【カムカム】物語を読み解く最大のキーワード「ひなたの道を歩く」の意味

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藤本脚本が伝えようとしていること

 この作品で藤本さんが伝えようとしていることの1つは「人間は時代に抗えない」ということに違いない。通常の朝ドラの一代記とは異なり、時代の違いがハッキリと分かることが、この作品の大きな魅力になっている。3人のヒロインを立てるという朝ドラ初の設定を望んだのは藤本さんである。

 では、安子のように戦前や現在のコロナ禍など暗い時代に生まれたら、その不幸を仕方がないと諦めなくてはならないのかというと、藤本さんはそうは表現していない。

 だから作品のカギを握る楽曲としてルイ・アームストロングの「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート(ひなたの道を)」を選んだ。

 この楽曲が米国内で発表されたのは1930年。当時の米国は大恐慌の真っ最中だった。失業者が相次ぎ、自死者も多かった。暗い時代だった。

 そこでルイたちはこの楽曲で米国民を励まそうとした。詞を直訳すると、その一部はこうである。

「悩みはひとまず置いといて ドアを開けよう 明るい表通りを歩けば 何もかも良くなるさ」(オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート)

 歌詞を見ていると、この作品を読み解くためには欠かせない「ひなたの道を歩く」の意味が浮かび上がってくる。

 たぶん、それはこうだ。「どんな困難にも屈せず、明るく前向きに生きていけば、きっと幸せになれる」。

 安子は第25話で義父・千吉(段田安則、64)に向かって「岡山を出た日に決めたんです。ひなたの道を歩いていくと」と、告げた。

 当時の安子はるいと大阪で暮らし、生活は決して楽ではなかったが、前向きに生きていれば幸福になれると信じていた。

 錠一郞も第48話でるいに対し、戦災孤児だったころに「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を聴いた途端、「僕には見えてた。ひなたの道が」と、振り返った。1人ぼっちで生きていたにもかかわらず、希望を捨てなかったら、きっと幸せになれると確信していた。

 人は生きる時代を選べない。けれど生き方は選べる。これが作品のメッセージの1つに違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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