『ソロ活女子のススメ』著者・朝井麻由美が昔食べていた「チリ産の茶色いウニ」の味を忘れられない理由
認知症になってしまった祖母
10年以上続いたこの習慣も、私が30歳になる頃には徐々になくなっていった。そうこうする間に、足を悪くした祖母はひとり暮らしの家を引き払い、介護サービス付きの住宅に引っ越し、ほどなくして糸が切れたかのように認知症になった。最近はたまに会いに行ってもニコニコしておらず、目の前の人を認識できていないのか、少し不安げな顔を見せる。そういえばもう長いこと祖母から「まゆみちゃん」と名前で呼ばれていないような気がする。
ここ数年の祖母は、次々と食べ物を電話で注文しては、そのことを忘れるらしい。カニを大量に注文してしまい、家族総出で必死で食べたこともある。カニも好きだけど、ウニだったらもっとよかったのに。こんなにウニ好きな人物が身近にいるのに、祖母はそんなことも忘れてしまったのだろうか。月に1回、祖母にウニを買いに行ってもらっていた私は、月に1回、自分でウニを買うようになった。北海道から取り寄せるウニは、あのときのウニと違って全然苦くなくて、鮮やかなオレンジ色をしている。でも、この先どんなに甘くほどけるウニを食べたとしても、祖母の家で食べていた苦くて茶色いウニを忘れることはないのだと思う。
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