元公安警察官は見た 公安のライバル「内閣情報調査室職員」を篭絡したロシアスパイの手口

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、内閣情報調査室の職員による情報漏洩事件について聞いた。

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 公安警察とライバル関係にあるのが内閣情報調査室(内調)だ。内閣府にある内調は、内閣の重要政策に関する情報収集と分析の他、国内外のメディアの収集・分析、外国政府の政策に関する情報の収集・分析などを行っている。

 2013年12月に成立した特定秘密保護法に伴い、権限が拡大。内調のトップである内閣情報官は、特定秘密保護法に関する企画、立案、総合調整を行う権限が与えられているのだ。

 内調の職員と公安捜査員は、「協力者(情報提供者)」が重なることがある。そのため内調の職員を公安捜査員が尾行することも珍しくないという。

 2007年12月、その内調のある職員が駐日ロシア大使館の書記官らに情報漏洩した容疑で検挙された。1952年に内調の前身が発足して以来、職員が情報漏洩で立件されたのは初のことだった。

いいカモだった

 職員は政府系外郭団体を経て1994年に内調に採用され、国際部を振り出しに内閣情報集約センター、内閣衛星情報センターに在籍していた。

「当時、警察出身の大森義夫内閣情報調査室長は、職員に対して『外部の人脈を作って情報を取ってこい』と発破をかけていました」

 と語るのは、勝丸氏。

「彼は警察出身ではないので、『協力者』をつくる訓練を受けていません。まして、スパイから身を守る術もありません。ロシアのスパイからすれば、いいカモだったはずです」

 職員が最初にロシアの書記官と接触したのは、国際部に在籍していた1998年だった。

「彼の専門は中国でした。中国関係のセミナーに参加した時、知り合いの通信社の記者からロシア大使館のリモノフ一等書記官を紹介してもらったのです。リモノフはロシアの諜報機関GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)所属のスパイでした」

 その1カ月後、リモノフと都内のレストランで食事した。以後、月に1度の割合でリモノフと会食するようになった。食事代はほとんど書記官持ちだった。

 数年後、任期がきてリモノフが帰国する際、後任としてグリベンコ一等書記官を紹介された。こちらもGRUのスパイである。

 グリベンコは食事だけでなく、手土産を職員に手渡すようになったという。

「最初はハンカチセット、それから1万円相当のハイウェイカードや商品券、さらに現金を渡されるようになります。金額は5万円です。有力な情報が取れなくても、職員が重要ポストに就くまで、協力者として確保しておくのです。結局、月に1度の割合でグリベンコと会食し、5万円を受け取ったといいます」

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