ドン逮捕で日大「加藤新理事長は辞めろ」は田中派の思うツボ 田中派が考える巻き返し策とは

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「加藤さんが一存で喋った」

 これに関して、私は日本大学の校友で現在も大学と関わりのある人から、新しい事実を聞かされた。

「理事会で6人が反対に投じた後、加藤さんが田中前理事長に代わって校友会の中心になっている人物と直接、膝詰めで話し合って協力を取り付けたと聞いています。田中前理事長と完全に訣別しないと、日大の未来がなくなると説得したそうです」

 加藤理事長は、記者会見で宣言しただけでなく、すぐに行動も起こしていた。田中復権あるいは田中復権をもくろむ中心とも見られる校友会幹部に働きかけていたのだ。それがあっての、「全員一致で評議員解任」だったのだ。

 田中派と言っていい加藤理事長で改革できるのか、という批判に対して、その人はさらにこうも教えてくれた。

「記者会見で田中前理事長との訣別と永久追放を宣言しました。あの文言は、事前の打ち合わせにはなかったと言うんです。あの場所で、加藤さんが一存で喋ったらしい。加藤さんが覚醒しちゃったんでしょうかね。それを聞いて、大学内部の人間がいちばん驚いてひっくり返ったそうです」

 あの言葉は、加藤氏自身と田中前理事長との訣別宣言でもあったのかもしれない。

大学の自浄能力も発揮したい

 そうした加藤氏の覚悟が学内の教職員に伝わったのだろう。取材に応えてくれた教授はこうも語った。

「これまで田中体制で学長だったことは脇に置いて、田中との訣別をはっきり宣言した加藤さんを支援して、改革を進めるのがいま私たちの取るべき行動だと思っています。なぜなら、加藤さんを田中派と言うなら、現理事は全員が田中派です。評議員もほとんどが田中派。うっかりすれば、ミニ田中が要職について台頭する可能性もないとは言えないのです。そういう意味では予断を許しません。

 だから、『加藤理事長はすぐやめさせるべきだ』といった世論が高まってしまうのは、むしろ心配です。今や田中派の最大の敵は加藤さんです。はっきりと訣別と追放を宣言した加藤さんを追い出して利を得るのは田中派かもしれません。いつのまにか、田中派の誰かが実権を握ることになれば、それが最悪のシナリオです」

 来年1月には、外部有識者を中心に組織する「日本大学再生会議」が発足し、改革への具体案が検討される。日大の教授有志の間では、「外部の有識者だけにすべて任せるのでなく、大学の自浄能力も発揮したい。これまでのように体制を批判するだけでなく、具体的にどんな改革が必要なのか、『再生会議』への提言をまとめようという声も上がっている」という。

 次の注目は、「誰が再生会議のメンバーを託されるのか」だ。田中派復権を画策する田中配下の校友や職員たちは、すでに自分たちの意を汲んでくれる外部有識者を推薦し、送り込む動きも始めているという。さらに、反田中を明確にした加藤理事長への敵視を深め、加藤おろしの画策も水面下で行われているとの噂もある。改革実現の道のりはまだ盤石ではない。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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