銀座の老舗「文壇バー」が異例の移転 ママが語る「銀座事情」と「新しい試み」

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店を続けることが健康法

 新店舗のドアを開けると、左側の壁はジャーナリストの半藤一利氏(1930~2021)の書が掛けられ、目の前のバーカウンターには、さいとう・たかを氏(1936~2021)の描いたゴルゴ13のポスターが飾られている。両氏とも「ザボン」の常連客だったことは言うまでもない。

 バーカウンターの横には個室があり、その奥にソファーとテーブルが並ぶ。もちろん豪華な空間なのだが、落ちつきがあって家庭的な雰囲気も感じさせる。

「新旧2店舗の家賃を払っていた時期もありました。旧店舗を営業しながら新店舗の改装も行います。コロナ禍の追い打ちもあって、閉店したほうがよっぽど楽だったと思います。でも、やっぱりこの仕事が好きなんです。家にいたらひとりぼっちだけど、店に出ればお客さんと楽しい会話ができる。『ザボン』を続けることが、私の健康法なんです」(同・水口ママ)

 作家を筆頭に文化人、芸能人などの著名人が集うサロン的な空間──改めて考えれば、なぜ文壇バーという場所が誕生し、“ビジネス”として成り立ったのか、不思議な気持ちになる。

銀座の浄化作戦!?

「丸谷才一さんは『僕たちはザボンという空間と会話にお金を払うんだ』と仰っていました。作家の皆さんが来てくださると、出版社の方も集まる。著名人の方も顔を出してくださる。様々な人が集まることで会話が弾みます。初対面のお客さん同士でも交流が生まれる。そういう場所を愛してくださるお客さんが今でもいらっしゃることは、本当にありがたいです。引っ越しして再オープンすると、皆さんが本当に喜んでくださった。こんなに嬉しいことはありません」(同・水口ママ)

 しかしながら、コロナ禍以外でも、銀座のクラブ界を取り巻く状況は厳しい。関係者が言う。

「クラブや飲食店が入る古いビルを壊し、新しいビルのテナントは高級ブランド・ショップを中心にする――そんな流れも顕著になっています。コロナ禍の不景気で、お客さんも、クラブで働く女性たちも、銀座を離れてしまった。再び銀座のクラブ街が隆盛を誇ることはないかもしれないが、コロナ禍さえ沈静化すれば、外国人観光客は戻ってくる。高額な服や宝石類、時計などが再び売れるだろうという読みです」

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