元公安警察官は見た 某駐日大使館の国旗がある日突然、新しいデザインに…公安部が情報収集に動いたワケ

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、ある日突然、国旗を変えた駐日大使館に公安部がザワついた話を聞いた。

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 政情が不安定な国の場合、本国で政権交代があると、駐日大使館の大使や外交官もごっそり入れ替わることがある。

「もっとも、政権交代があっても生き残る大使もいます」

 と語るのは、勝丸氏。かつて公安部外事1課の公館連絡班に所属していた同氏は、大使館や総領事館との連絡・調整が主な任務だったため、数多くの外交官と交流があった。

「アラブのある大使館には、大統領の肖像画が飾られていました。大使は大統領のことを英雄と称え、その反政府勢力をテロリスト集団と呼んでいました。ところが、反政府勢力が政権を奪取して大統領が放逐されると、大使館の肖像画はさっさと外され、新大統領を『民主的選挙で選ばれた正当な大統領』と言い出しました」

「大使はお会いしない」

 アフリカのある駐日大使も、劇的な政権交代の荒波を乗り越えた一人だった。

「10年程前の夏、上司から『アフリカのある駐日大使館の国旗が変わったそうだが、聞いているか?』と連絡がありました。母国で政権交代があったらしく、大使館に掲揚されている国旗が変わったとのニュースが流れたのです。何があったのか早急に調べて公安部長に報告することになりました」

 その直前、某国は激しい内戦の末に反政府勢力が優勢となり、首都を制圧しつつあるとの外電が流れていた。

「同時に独裁者と言われたトップが殺されたという情報も飛び交っていましたが、まだ真偽は確認できませんでした」

 それもあって、公安部から管轄署に「大使に会って話を聞いてこい」との指示が出されたという。

「管轄署が大使館に電話をしても、『大使はお会いしない』の一点ばりだったそうです。私は大使とレセプションで名刺交換したことがあったので、私から電話をしてみることにしました」

 勝丸氏が大使館に電話すると、受付の日本人職員は「大使からいかなる電話もつないではいけないと厳命をされています」と答えたという。

「私は、『大使館と外交官の安全に関わる差し迫った問題です。それでも会えないのか、大使に聞いてみてください』と伝えました」

 母国で政権交代があると、大使館が危険にさらされる場合があるためだ。

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