日テレ「二月の勝者」は放送枠で損をした? ようやく見えてきた黒木蔵人の正体

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放送枠異動後、最も世帯視聴率を稼いだのは…

 放送枠異動後、最も世帯視聴率を稼いだのは「トップナイフ」。その全話平均視聴率は11.3%だった。もっとも、皮肉にもこの作品はティーンズ向けではない。病院内の人間模様をシリアスに描いていた。

「視聴率はもう関係ない」という声もあるようだ。「ドラマは録画かネット配信で観る」と決めている視聴者からすると、そうだろう。

 しかし民放ビジネスには視聴率しかない。視聴率と売上高はきれいに連動する。だから局の内側の人は「視聴率は関係ない」と言わない。

 TVerなどの配信動画の収入を高めていけば新たな民放ビジネスのスタイルが築けると考える向きもあるかもしれないが、「ドラマのTBS」ですら配信事業(無料配信による広告収入分)の2022年度の収益目標は35億円。1カ月ではない。1年間だ。

 これに対し、TBSホールディングスの2021年度の売上高は3265億円。その差は途方もなく大きい。配信に頼っていてはドラマがつくれない。

 タイムシフト視聴率は作品の支持を知るには大いに有効な指標であるものの、残念なことにスポンサーの評価はリアルタイム視聴率より劣る。CMを飛ばされてしまう怖れがあるからだ。

 有料放送に移行しない限り、民放は視聴率から逃れられない。

「二月の勝者」の話に戻りたい。

 主人公は柳楽優弥が演じる黒木蔵人。思うように生徒たちの成績を上げられない中学受験塾「桜花ゼミナール吉祥寺校」が、巻き返しを図り、新校長として名門塾「ルトワック」から招いた。

 最初はとんでもない男にしか見えなかった。塾講師たちに向かって「子供たちを合格に導くのは父親の経済力と母親の狂気」などと言い放ったからだ。

 おまけに周囲の誰とも打ち解けない。決して笑わない。人間味に欠けた冷徹な人物に映った。

 けれど真の黒木は偽善者ならぬ偽悪者であることが徐々に明らかになる。第6話では秘かに無料塾「STARFISH」を運営していることが分かった。

 子供を合格に導くのは「父親の経済力」とうそぶきながら、そのイズムによって得た利益を無料塾に注ぎ込んでいたわけである。

「金のあるところからは取るが、ない人には要求しない」。それが黒木流の再分配なのだろう。黒木という男はすべての子供たちに均等な教育機会を与えたいのではないか。

 親が教育費をかけられるかどうかによって学歴差や貧富の差が生じ、その格差が親から子へ連鎖する時代になっている。それが社会問題化しているだけに、骨太で意味深長な物語だ。

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