10万円給付、異論続出の「960万円問題」の源は? 7年前から指摘されていた「児童手当の欠陥」

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960万円の理由

 だが、所得制限の内容を知った有権者は更に反発を強めた。

「そもそも『年収960万円』といえば、かなりの高収入です。対象は全世帯のうち1割しかなく、『バラマキ』という批判に耐えられる制限ではありませんでした。更に960万円は世帯全体の年収ではありません。例えば、父母が共働きでそれぞれの年収が800万なら世帯収入は1600万円ですが、この場合は給付の対象になるんです。一方、父母のどちらかが年収960万円以上あり、片方は無収入の場合、給付の対象から外されます。『これは不公平以外のなにものでもない』と批判が殺到しました」(同・記者)

 自公が「世帯で主に収入を得ている人間の年収が960万円以下」との条件で合意したのには理由がある。現行の児童手当制度が利用できるからだ。

「公明党の公約は『コロナ禍の長期化に伴い、特に子育て世帯が大きな影響を受けている』ことを給付の理由としました。自公は『給付にはスピードが必要』とし、児童手当の制度を利用しようとしているのです。しかし、児童手当の対象は、中学生が上限です。高校生は対象ではないこともあり、『16歳以上は申請式』との議論が浮上したわけです。有権者の多くは、更なる迷走を感じているでしょう」(同・記者)

児童手当の不平等

 政治解説者の篠原文也氏は、長年にわたって「児童手当の制度設計には問題がある」と訴えてきた。取材を依頼すると、「同じことを何度繰り返すのかと、もはや呆れています」と言う。

「『18歳以下には等しく10万円を給付する』という当初の案は、様々な問題があるとはいえ、一応は許容できるものです。『子供は社会全体で育てるべき』という理念と合致します。コロナ禍で大学生や高齢者などが経済的に困窮しているのは事実ですが、そうした方々には別の政策で対応すべきでしょう」

 児童手当の枠組みを援用することも、「スピードが求められていることを考えれば、納得はできます」と語る。

「少なくとも中学生までの子供がいる世帯については、児童手当の制度を援用できるのは大きいでしょう。たとえ高校生は制度の対象外だとしても、ゼロから制度設計をするよりは遥かにスピーディーです」(同・篠原氏)

 とは言うものの、児童手当が“不平等”な制度だったことは紛れもない事実だという。

「私は以前から、児童手当には制度上の不都合があると訴えてきました。今回の問題点と全く同じで、共働きの家庭と専業主婦の家庭では不適切な格差が生じてしまうからです。月刊誌『Voice』の2014年7月号に『怒れ!専業主夫』を寄稿し、著しい不平等があると指摘しました。同誌での野田聖子さん(当時:自民党政調会長)、高市早苗さん(同:政調会長)との鼎談でも、同じ問題点を訴えました」(同・篠原氏)

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