中国テニス選手の性暴力告発 3つの疑問から浮き彫りになる共産党幹部の権力闘争

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党の“プロパガンダ報道”

 3つ目は、なぜ中国共産党の対応が後手後手に回っているのか、という疑問だ。党にとって北京冬季五輪は、何が何でも成功させたいビックイベントだ。そのためには、国際社会と軋轢を起こさないことが何より重要だ。

「北京冬季五輪を成功させるためには、中国共産党は告発の真偽、そして告発後の経緯について、きちんと説明しなくてはなりません。しかし現実は、ネット上で彭帥さんのメッセージであるとされる出所不明の投稿や、写真や動画を公開するなど、中途半端な対応にとどまっています」(同・記者)

 中国共産党は「彼女は生きており、全く問題ない」と国際社会に訴えているつもりなのかもしれない。案の定と言うべきか、共産党系のメディアが「写真は事実で間違いない」などと太鼓判を押している。

 だが彭帥の問題は、そもそも中国国内では全く報道されていない。中国共産党が火消しに躍起であることだけは伝わってくるが、党の示す“証拠”に対して国際社会は冷笑的だ。“プロパガンダ報道”など誰も信じない。

「歴史決議」との関係

 中国出身で07年に日本に帰化した評論家の石平氏は、「私も驚きながら連日の報道を見ています」と言う。

「中国共産党の幹部であれば、愛人がいてもおかしくない。それは確かに常識です。しかしながら、性的被害を受けた女性が実名で告発し、加害者の姓名も明かしたという前例は思い浮かびません。おまけに張高麗氏は、引退を表明したとはいえ、まさに共産党最高幹部のひとりでした。普通なら彼は“安全地帯”に属し、こんなスキャンダルとは無縁の人物です。何から何まで異例の展開と言わざるを得ません」

 石平氏は「謎を解く鍵は、中国共産党が11月16日に全文を公開した『歴史決議』にあります」と分析する。

 中国共産党は8日から重要会議の「6中全会(中国共産党第19期中央委員会第6回全体会)」を開き、11日に閉会した。6中全会では、今年が共産党誕生から100周年を迎えたことを踏まえ、「歴史決議」を採択したと大きく報じられた。

「6中全会では、習近平への権力集中が加速しました。そもそも中国共産党は、国家主席の任期を『2期10年』と憲法で定めていました。ところが習は、18年に憲法を改正し、国家主席の任期を撤廃します。今回の歴史決議の採択も、習の権威を高めるためには極めて重要なものでした。独裁体制を継続するためには不可欠の決議であり、彼にとっては正念場の一つとも言える政治的イベントだったのです」(同・石平氏)

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