【カムカムエヴリバディ】3週目で早くも見せ場…安子と稔の恋にみる藤本脚本の奥深さ

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安子の深遠なセリフ

 ノスタルジーに浸らせてくれるエピソードが散りばめられているのもこの物語の魅力だ。安子が稔に自転車の乗り方を教わることで2人の仲が深まったり(第4話、5話)、初デートの場がジャズを聴かせる喫茶店「Dippermouth Blues」だったり(第4話)。自転車の練習や音楽喫茶に関する思い出がある人は少なくないはず。それでいて普段は忘れている。エピソードの選び方が心憎い。

 第5話からの2人の文通もそう。文通を知る世代には懐かしかったが、同時に新鮮でもあった。日常で文通が語られることがない上、現代劇ではまず描かれないからだ。

 話を第12話に戻したい。哀願する金太の頼みを聞き入れる形で稔は安子と会う。2人の出会いは1939年で安子は14歳だったが、この時は1941年。安子は16歳になっていた。

 稔は胸の内を安子にぶつけた。

「戦争が終わったら、大学を卒業したら、きっと・・・」(稔)

 だが、安子の側から別れを切り出す。稔が嫌いになったわけではない。雉真家の反対が理由だ。稔の立場も考えた。

「ラジオの講座がのうなったら、おぼえた英語わすれてしもうた。稔さんのこともきっと忘れられます」(安子)

 深遠なセリフだった。2人の関係はそもそも稔が安子にラジオの「実用英語会話」を聴くことを勧めたために始まった。しかし全ての英語講座は太平洋戦争が開戦した1941年に終了してしまった。

 2人の恋も英語講座の消滅と時を同じくして終わってしまうのか。カギを握るのは1943年の学徒出陣(20歳以上の文系学生の徴兵)に違いない。稔も徴兵の対象になる。

 千吉は稔と銀行頭取の娘を結婚させようとしていたが、稔は戦場に行くことになった。生きて帰れるかどうか分からない。それなのに非情な政略結婚を強いることなど出来るのだろうか。千吉も実業家である前に父親であるはずだ。

 千吉の内面も現代人とそう変わらないのではないか。

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