新庄ビッグボスの1週間を検証 実は野村ID的志向で、ワゴン車と竹竿も使う必要はない?

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新庄らしいメッセージ

 秋季キャンプで笑ったのは、ワゴン車の上に乗って指導する光景だ。最初、ネットで写真を見た時、意味がわからなかった。暴走族のお兄ちゃんかと思った。後でテレビのニュースで見て、目的がわかった。新庄ビッグボスは車の上に立ち、竿を持って高さを示し、その下を通して遠投するよう選手に求めたのだ。より低い弾道でどこまで投げられるか。現役時代の新庄やイチローばりのレーザービームこそがファンを沸かせる。これは確かに新庄らしいメッセージだ。

 でも、やっぱり笑った。車の上に乗り、物干し竿を構える。およそカッコ悪いしお行儀もよいとは言えない。いまスポーツ界は当たり前のように科学が跋扈する時代。様々なマシンが個人レベルでも導入されている。ゴルフ界では「トラックマン」に代表される弾道測定器が人気で、大半のプロが練習場で常に使っている。一打一打、打球角度、打球速度などが明示され、ショットの精度が確認できる。このマシンが野球界でも導入され、投球や打球の初速、スピン量、角度など詳細に分析されている。つまり、遠投する野手の脇に弾道測定器をセットすれば、目標とする角度や回転数などは即座に表示されるのだ。ところが、新庄ビッグボスはそんな最新マシンに頼らず、ワゴン車と竹竿を用意したのだ。

 デジタルな器械じゃ絵にならないんだ! 選手は数字だけじゃ実感できないだろ! という理由なのか。新庄ビッグボスが案外こうした最新機器に疎いのかは不明だが、これをわざわざ目で見える旧式な方法でやって話題になるのは新庄ビッグボス以外にいないだろう。

 野球選手にとっては、確かに、デジタル画面に後で表示される数字より、物干し竿の上か下か、投げた瞬間に身体でわかる現実の方が、ピンとくるかもしれない。

 新庄ビッグボスは「新しい」「時代の先端を行っている」と思われがちだが、「実は古いタイプの人間で、科学に流されず、古き良き感性を大事にする」からなのかもしれない。派手なファッションや華やかなアクションは、本質的な古さを隠すイリュージョン?

 新庄が、中高年の女性にも男性にも好かれているのも、実は新庄が礼儀を重んじ、年長者を敬い、ぶっ飛んでいるようで実は古いと言われる人情の持ち主で、ただの突っ張りじゃないことが伝わっているからかもしれない。けれど一方、新庄ビッグボスは白々しい古さや気持ちの悪い慣例には「やめましょうよ」と言える素直さと勇気がある。

 テレビ東京の「スポーツ・ウォッチャー」で中畑清のインタビューに答え、最後に「ファンにメッセージを」と促されて、「そのシステム、やめません?」と言って、中畑と気勢を上げて会話を締めくくったのは、いかにも白々しいパターンに飽き飽きしている新庄ならではの変革だった。これから新庄は、他にどんな古いシステムを改善してくれるか。真っ先に浮かんだのは、勝利監督インタビューの際に必ずアナウンサーが叫ぶであろう、「放送席、放送席!」という言葉。新庄ビッグボスにはまず「そのシステム、やめません?」と初勝利の日に言ってほしい。そしてそのほかに変えてほしいシステムは、さて何だろう? それを考えると、新庄ビッグボスへの期待感はいっそう高まって楽しみに感じる。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年11月13日掲載

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