ズームインの空気を思い出す「THE TIME,」 “クセ強”アナたちの生中継から目が離せない

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 子供の頃は日テレの「ズームイン!!朝!」を観て育った。全国の系列局と結んだ生中継には、その土地の特色が色濃く反映されていて、なんだか面白かった記憶がある。そんな空気を思い出させてくれたのが、TBSが満を持して放った「THE TIME,」だ。早朝の顔に安住紳一郎アナと香川照之を配する英断というか、賭けというか。スタートから約2週間、お試し視聴したところ、いたく気に入ってしまった。何が、って、生中継のコーナーが。

 ズームインほどの規模ではないが、毎日2カ所と繋ぐ。系列局の手練れ(クセがすごい)アナウンサーが手ぐすね引いて、安住(香川)のツッコミを待ち構えとる。

 まず、ネットでも話題になった「池に落ちた」事件。CBCの若狭敬一アナだ。三重県伊勢市でミニチュア姫路城を築いた人に取材。夜が明けぬ暗いうちにひとりリハーサル中、姫路城内の池に顔から落ちたという。「はい、事件現場です」と繋ぐあたり、ベテランの貫禄。別の日は中日ドラゴンズ贔屓が甚だしい恣意的な中継を個人宅(ドラフト待ちの高校球児宅)から敢行する暴挙。ズームインっぽい!

 また、一瞬溺れかけたのは、OBSの甲斐蓉子アナ。小気味よいリポートに安心感と思っていたら、大自然サウナ中継の日、鍾乳洞内の水風呂であやうく溺れかけたのだ。皆、水難の相か?! 朝っぱらから放送事故一歩手前でも、完璧なしゃべりでまとめるし、安住アナがきっちり回収。自分のミスも自虐で滑稽に回収。さすが。

 さらに、ズームインを彷彿とさせたのが、映った瞬間から目を離せなくなるタイプのアナウンサーである。

 全身から昭和の香りがするのは、MBSの福島暢啓アナ。昔の映画に端役で出てきそうな感じ。福福しいルックスだが、デカ盛りモーニングを食べきれず、タッパーを要求するお茶目さ。

 彼が作った番宣用の動画(昭和のテレビ風)が出色の出来栄えだし、Twitter見たら驚くほど絵が上手。才能豊かな逸材アナとして、また二丁目界隈でも密かに人気を博していると知った。

 さらに目を奪うというか、耳を奪うのはMBCの岩崎弘志(こうじ)アナ。安住アナが「最新AI」と例えるほど、よどみなく完璧なレポートっぷり。柴田理恵とずん飯尾も搭載した最新AIロボットを想像してほしい。取材先は、3500円のつるはし1本で全長50メートルのサツマイモ貯蔵庫を2年かけて掘ったおじさん(テレビが来てウキウキ)。ここでサツマイモを寝かせると糖度が高く美味しくなるという。いや、もうサツマイモよりも、岩崎アナとウキウキおじさんの絵ヅラで満腹満足。

 もちろん課題もある。ボクシングのパッキャオがフィリピンの大統領選に立候補したニュースを香川には触れさせない苦肉の策とか、若い女性にスイーツ食わせて無駄に微笑ませる悲しい因習とか。ああ紙幅足りず。

 目立たないが、実はスタジオアナ陣の合の手も巧み。自虐傾向のおじさんふたりを操る腕前には膝を打つ。

 早朝に就寝する生活だが、この番組は要経過観察。定期的に追っかけていきたい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

2021年10月28日号掲載

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