世良公則が語る「ワクチンパスポート」への違和感 打てない人が差別される可能性も

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ワクチンを接種しても感染の可能性が

 しかし、現実には10月から、いくつかの自治体がワクチンパスポートを実験的に導入します。飲食店内を、接種者と未接種者でエリア分けする自治体もあるようです。そんなことをすれば、目に見えて分断が助長されるでしょう。自治体の幹部の方々は、「禁煙と喫煙のエリア分けと同様、差別ではなく区別だ」という意識かもしれませんが、それとはまったく違います。

 その違いに気づかないのは危険です。ワクチンを打っていても感染はするのですから。僕は広島県出身ですが、地元の友人が、移動制限が緩和されたので実家に帰ろうとしたら、ご両親から「孫はワクチンを接種したのか。打ってないなら来てくれるな」と言われたとか。しかし、ワクチン接種の有無にかかわらず、感染の可能性はあるのです。

 これは誤った認識が原因で、家族が分断されてしまった例ですが、ワクチンパスポートは、それをさらに深めてしまう危険性がある。だから心配なのです。

窮地に追い込まれた音楽業界

〈世良は新型コロナの問題について、政府への苦言もふくめ、たびたびツイッターに投稿している。しかし、以前からの習慣ではない。感染拡大初期のころ、補償がないままの自粛要請が原因で、制作会社社長が自ら命を絶った、と聞き知ったのがきっかけだという。〉

 戦後、日本人は平和にすごすうちに、分断への恐怖が薄らいでしまった。しかし、知らず知らずのうちに貧富の格差は広がりました。そしてコロナ禍では、僕らの音楽業界のように、補償とセットになっていない自粛を要請され、救済されていない業界も多い。

 初めて自粛を求められたとき、固定費3カ月分の融資を受けるだけで「なんとかしのいでください」と言われました。やむなく、予定していたライブやイベントを軒並みキャンセルしたのですが、イベントの規模によっては、キャンセル料だけで数百万円です。いまはキャンセル料なども多少は補償されますが、当時は対象外。しかもフリーランスのスタッフは、プロフェッショナルなのに、なにひとつ補償がありませんでした。アーティストのライブ中止が重なり、仕事をすべて失うスタッフが続出しました。

 いまでも国の要請に従ってライブを行うと、かなりの赤字です。観客は客席の50%に制限され、さらに経費の半分しか補償されないので、やればやるほど赤字になります。それでも高いハードルを越え、ライブを開催してきました。

 お客さまには消毒やマスク着用、声を出さないことなどを、徹底してお願いしてきました。それでもライブは、テレビで数曲歌うのとは違います。多くのメッセージを直接伝えることができ、お客さまからも「元気をもらった」という声をはじめ、いろいろなメッセージを直接いただく。そこに価値があります。

 また、開催したら2週間後、感染した方がいないかしっかり追跡し、公表しています。おかげさまで感染拡大から1年8カ月、いまのところ感染者は出ていません。しかし、政府が設けているハードルは、ライブをあきらめさせたいからなのか、かなり高いのです。

 いま、補償を受けてライブを開催するには、動画を作成し、YouTube等で配信することが条件です。経費の50%しか補償されないのに、そこまで求められる。だれもがクリアできる条件とはいえません。手続きもかなり複雑で、「政府は補償をしたくないのか」と、音楽業界ではいわれています。

 それでもライブを行う責任があります。この業界は一人社長の会社が多く、彼らは補償の対象ではないので、倒産や失業の連鎖が止まりません。そうした現状を訴えても、いまなお政府は動いてくれません。

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