毒蝮三太夫×生島ヒロシ対談 毒舌が許された理由、85歳で現役の健康法とは
「お前の命を取る」
生島 長くやっていると、絶体絶命のピンチもあったんじゃないですか。
毒蝮 日本赤軍の「日航よど号ハイジャック事件」があった時、俺は番組で「平壌に行った連中の気持ちも分からなくはない」って話したことがあった。そしたら、右翼が“極左の凶悪犯を弁護するのか”って騒いで、抗議電話が毎日かかってきた。「お前の命を取るのは簡単だぞ」ってな調子でさ。
生島 その昔は山口二矢(おとや)が浅沼稲次郎を刺殺した事件もあったから心配ですよね。
毒蝮 その右翼団体は「ラジオに出た奴を連れてこい」って言ってくる。それで、担当ディレクターで後にTBSラジオの役員まで務めた深水(ふかみ)っていう男が、右翼団体の事務所に行って、「毒蝮は偏った人間ではない。その部分だけ聞いてご立腹でしょうけれど、全部を聞いたらお客さんが喜んでくれて、こんなに愛国心のある、お年寄りを大事にするいい人間はいない」って膝を詰めて説得してくれた。
生島 やりますね……。
毒蝮 そしたら、相手も分かったと言って帰してくれた。彼は俺の身代わりとして殺される覚悟で行ったと。そういう気概を持ったディレクターに助けられた。
生島 すごい話ですが、齢を重ねてもマムシさんの記憶力は凄いですよね。
毒蝮 普通だよ。
生島 何か記憶術みたいなものがあるんですか。
毒蝮 最近、将棋が流行っているじゃない。
生島 藤井聡太くん。
毒蝮 そうそう、彼は大したもんだよね。それで将棋についての恋歌を時々、頭の中で諳(そら)んじてるんだよ。ちょっと聞いてみるかい?「将棋指す手をつくづく見れば、やっぱり恋路も同じこと、この手で利くのか利かぬのか、“飛車”を使って呼び出して、“角”の次第とコマゴマと、語れど相手は“歩”に落ちず、跳んだ“桂馬”にハねられて、無駄に使った“金銀”は、“詰まらない”ではないかいなっと!」
生島 へぇ~、面白い。最近、覚えたんですか?
毒蝮 これは寄席で教わったから、50年くらい前かな。なんかそのリズムがいいので覚えちゃった。談志にも、お前は変なことを知っているなと言われたね。
生島 今日、僕も久しぶりにマムシさんに会えて、本当にお元気だなと思うんですけど、一時は入院されたこともありましたよね?
毒蝮 15年くらい前だよ。
生島 よく三途の川から戻ってこられましたね。
毒蝮 俺はターンが上手いんだよ。仙台まで流されてからの、牛ターン!
生島 なるほど(笑)。あの時はどんな気持ちでしたか。
毒蝮 41日間、入院したからね。その間も番組は続けて病室から中継したり、玉置宏さんや三遊亭小遊三ちゃんが俺の代わりをやってくれて助かったんだ。
生島 もともとは腸閉塞で入院されたんですよね。
毒蝮 手術で腸閉塞を切ったら、大腸がんが見つかったんだけどさ。腸閉塞のおかげで、がん細胞は腸内に包まれるような状態だったから転移は免れた。今はピンピンしているから強運だったよ。俺たちの世代は病気になったら手遅れだから、今は聖路加病院で定期検査をしてもらっているんだ。
生島 将棋のように先手、先手を打っていく。この超高齢社会を不安に思わないで、マムシさんみたいに前向きな気持ちの人が一人でも増えたらいいですね。
毒蝮 まぁ、コロナもそうだけどこんな時代だから、逆に何でも面白がって明るく生きようとしているだけだよ。今、メジャーリーグの大谷翔平選手が世間でウケているけど、なんといっても明るいじゃない。
生島 この時代にあって、大谷選手からは明るさと共に希望も感じますよね。まさにスーパースター!
毒蝮 そして、あの素直さ。親御さんの教育もよかったんだろうな。俺と大谷を並べて多少違う点は、あのルックスだよな(笑)。世界で通用するハンサム顔。5歳くらいの女の子からも“結婚してください”ってファンレターをもらうそうだからね。女性からもモテるだろうけど、どこまでも野球一途。そこがまたいいよね。
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