ガソリン1リットル=200円の現実味 “脱炭素”で近い将来深刻な供給不足も

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「脱炭素」の動き

 OPEC(石油輸出国機構)とロシアなどの大産油国で構成されるOPECプラスは、10月4日に閣僚級会合を開催し、前月と同様に11月の原油生産量を、日量40万バレル増加させることで合意した。米国やインドなどの主要消費国から増産幅の拡大を望む声が上がっていたが、OPECプラスは増産要請に応えなかった。「新型コロナウイルスの第4波が原油需要を再び減少させかねない」と懸念したからだ。

 OPECプラスは「来年は供給過多になる」と見込んでおり、増産幅を拡大すれば、原油市場の需給バランスが大きく崩れると判断したのだろう。何より安定した原油価格を望んでいる。だが皮肉なことに、OPECプラスの今回の決定が市場を不安定化させている。

 というのも、OPECプラスが大幅な増産を見送ったことで供給不足への懸念が高まり、「主要産油国が供給を増やさない限り、原油価格は90ドルを突破する」との懸念が生まれているからだ。

 そしてパンデミックの影響以上に原油価格の上昇に拍車をかけているのは、「脱炭素」の動きだ。

 化石燃料の中で最も二酸化炭素の排出量が少ない天然ガスに注目が集まり、特に発電分野での天然ガスシフトが一気に進んだことで、世界的に天然ガスの価格が急騰している。

 欧州の天然ガス価格は一時、原油換算で1バレル=200ドルを突破し、その後も同160ドル台と高止まっている。この価格はWTI原油先物(アメリカの代表的な原油の先物商品)価格の約2倍に相当することから、相対的に割安な原油を発電燃料に使う動きが欧州やアジアで広がり始めた。

「原油価格は100ドルを超える」

 10月上旬、サウジアラムコは「原油需要が当初の想定より日量50万バレル増加している」との認識を示した。想定外の需要増が発生したことに戸惑いの色を隠せないでいる。

 世界最大の原油消費国である米国も「脱炭素」の動きで混乱している。2010年代に起きたシェール革命で世界第1位の原油生産国に復活した米国だが、「脱炭素」の風潮も災いして、原油生産量は日量1130万バレルと、コロナ禍以前よりも200万バレル低いままだ。ガソリンの小売価格は1ガロン=3ドル20セントを超え、2014年10月以来の最高値に達した。暖房需要が高まる冬を前に、米国のヒーティングオイルの在庫は十数年ぶりの低水準となっており、「厳しい冬の到来で原油価格は100ドルを超える」との予測が現実味を増しつつあるのだ。

 原油価格の100ドル超えが一時的なものにとどまらない可能性もある。

 国際エネルギー機関(IEA)は今年5月、「2050年までに世界の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするため、化石燃料関連の新規投資の決定を今年中に停止すべき」と提言した。だが、「2050年の世界の原油需要は20年比で4割増える」との予測がある(米エネルギー省)。投資が停滞すれば、近い将来、深刻な供給不足に見舞われてしまう。「脱炭素」の実現を急げば急ぐほど、原油価格が高騰するリスクが高まる。国内のガソリン価格も200円超えとなってしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月16日掲載

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